中国進出インタビュー

第 78 回「知的財産の分野で世界への進出をサポート」瑪斯威利専利商標代理事務所/蘇州高洛威徳知識産権諮詢有限公司
 
グローバル社会の現在、中国で製造して日本で販売するといった二国間だけで成立するビジネスだけではなく、中国・日本・ASEAN・欧米と世界各国が繋がるビジネスが増加しています。そのような環境下で企業は、知的財産権もグローバルな視点で考えなければなりませんが、一企業が簡単に出来るものではありません。今回はそのグローバルな視点で企業の知的財産権をサポートするMasuvalley and Partnersの舛谷代表に、起業の経緯から現在のビジネスモデルについてお話を伺いましたので、ご紹介致します。
 
 
◆ 外国での起業
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米国オフィス開設時(2003年)
大学入学当初は弁護士を目指そうと考えていたのですが、ある日、知的財産の講座を受講したのがきっかけで、知的財産の分野に興味が湧き、弁理士の勉強を始めました。今現在は企業の中に知財部や弁理士が存在していますが、1980年代後半の当時は弁理士合格者の平均年齢が30代後半位、ピークを越えた開発者や研究者が転職して弁理士になることが多かった時代であり、新卒から知的財産の分野で働こうと考える学生は稀で、就職先は企業ではなく、殆どが法律事務所や特許事務所という状況でした。当時就職活動で企業にいる大学の先輩に会いに行っても、「知財部など入るのは辞めて、半導体の開発にしろ」と叱られたこともありましたね。
それでも知的財産に関する業務に関わりたく、大手電機メーカーの知財部になんとか新卒で入り込めましたが、当時はどこの大手電機メーカーも米国の企業や個人発明家から特許権侵害で訴えられ、特に私が入社した企業は半導体の基本的な技術を真似たと言われて米国半導体会社から民事訴訟をかけられている状況でした。このような環境でしたが、お陰で20代前半から企業内弁理士として、米国をはじめとした国際的な知的財産権の業務に10年程携わることができました。
国際的な知的財産権の業務に関わる中で、米国と日本の仕事に関する大きなギャップに悩まされました。当時勤めていた電機メーカーも世界的な大企業でしたが、それでも日本本社に戻ると仕事への取組姿勢などがゆったりしていて、米国で感じていた世界的な技術・開発に関する競争というものが感じられませんでした。そのギャップに加え、勤めていた会社が半導体不況の煽りを受け、半導体事業やディスプレイ事業を分社化したこともあり、私はそのまま米国で起業する決意をしたのです。私が勤めていた会社は日本企業の中でも早くから特許権侵害で訴えられていたこともあり、そこで得た経験や知識を他の日本企業のサポートとして事業化、日本企業が米国マーケットに参入した場合の知的財産権問題のコンサルティング業務を開始しました。
 
◆ 中国での事業にチャレンジ
米国での起業は幸いにしてすぐに複数の日本の大手企業がクライアントとしてつき、順調なスタートをきることができました。そして米国での起業から5年経過した頃、中国で知的財産の分野が活発化してきました。それに合わせるかのように、クライアントであった半導体会社の中国関連の案件も発生し、懇意にしていた中国人弁護士と共同で中国に提携事務所を設立して、中国でも米国同様に日本企業が中国マーケットに参入する場合の知的財産権問題のコンサルティングを開始しました。
このように我々の事業は、日本人の弁理士であるにも関わらず、外国の知的財産権を中心としたコンサルティング業務を行っています。日本企業はグローバルに活躍されている企業が多いです。例えば日本で設計した商品を、中国で製造して、米国などの日本国外で販売するというようなケースも多いかと思います。このような場合、日本の弁理士や弁護士が日本・中国・米国を漏れなくカバーするのは一般的に困難です。大手法律事務所であれば対応できると思いますが、このような大手事務所は当然費用が高くなります。また東京にいる彼らが直接、法律業務する訳ではありません。提携している海外現地の大手法律事務所が、日本の大手法律事務所からの指示に従い、国外の法律業務を行う形態が多いと聞いています。
会社の設立や労働問題であれば、このような形態で十分カバーできると思いますが、技術・法律・マーケットが複雑に絡み合う知的財産権の分野では、伝言ゲームのようなやり取りがケースをさらに複雑化させます。そのため、日本の弁理士がマネージャーとして、外国の弁護士・弁理士を雇用しつつ、一つのチームとして、多国で展開するようにしたのが我々の会社です。現在、我々のオフィスはカリフォルニア、蘇州、東京、バンコクにあり、日本弁理士4名、米国弁護士・弁理士5名、中国弁護士・弁理士3名、タイ弁護士・弁理士3名でサービスを展開しています。
 
 
◆ 中国でのサポート事例
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中国の大手法律事務所が日本語を話せるコーディネーターを雇用して、中国に進出している日本企業に対応しているケースも多く見受けられますが、結局のところ、コーディネーターは法律業務を行えませんので伝言ゲームのようなやり取りになりますし、中国の法律事務所は日本の事情や欧米の法律事情に関する知識がありません。
そこで日本の製品開発事情を踏まえた上で、中国での権利をどのように取得し、さらに販売して行く諸外国で問題が起きないよう、どう登録申請していくかをグローバルな視点で考えていくのが、我々のメイン業務になります。例えば日本の法律では意匠などのデザインの権利は権利範囲が狭く、あまり使い勝手がよくありませんが、中国や米国では非常に強力な権利ですし、特許に比べて安く早く権利が取得できますので、予算がタイトな昨今の日本企業に対して、実質的な権利網を安価に構築する方法を提案しています。
さらに一つのアイディアを同時に複数国で申請、特許や商標を取得して、事業を広く展開するお手伝いをしたり、関連するそれぞれの国での複雑な法律問題をなるべく簡単に説明したりしています。このようにクライアントのビジネスが行われる場所と非常に近いところに我々自身が身を置き、クライアントに寄り添うようなサポートができるよう心掛けています。
 
◆ 中国ビジネスでの苦労
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我々自身も2006年から中国に進出して、多くの困難に立ち向かってきました。提携した中国弁護士が採用してきた中国人弁理士スタッフの能力が低いことが、提携後しばらく業務をしていくうちに判明しました。優秀な人がいても中国ではあっという間に転職してしまい、事務所に残った人は経験の少ない弁護士がほとんどで、彼らと何とかサービスを実施できるよう試みましたが、最終的に我々は彼らとの中国での提携関係を解消するまでに至るまで追い込まれてしまいました。
しかしその後も、粘り強く、あきらめずに中国での事業を考え、2006年当時は無理だった外資100%の法律コンサル業務会社を中国・蘇州で開設することができました。中国のマーケットや法律環境は、毎年のように大きく変わります。変化の大きいこの中国では、しっかりした考えをもち、事業を進めて行くことが非常に大事です。特に製品やサービスの良し悪しはもちろんのこと、それをどのように囲い込んでキャッシュ化していくか考えなくてはいけません。さらに中国では、良いサービスはあっという間に模倣されてしまいます。知的財産権は中国のマーケットに非常にマッチしていますし、現在は中国人がものすごい勢いで、世界中で特許や商標を申請しています。日本企業はこのような競争に負けないように、粘り強く自らの権利を中国マーケットで確立していく必要があります。
 
◆ 会社の強み
日本で知的財産権の法律事務所が行う業務の殆どが特許や商標の申請業務です。しかし我々の場合は、日本企業が海外のマーケットに参入した場合の知的財産権に関するコンサルティングを業務としています。そのため申請業務のみならず、係争や侵害問題の対応も幅広く行っていますし、最近では偽物品の調査に力を入れています。例えば偽物品が出回っている店舗やECサイトなどを調査し、製造している工場や偽物品のオーナーなどを調べ、摘発します。最近はこのような偽物品のビジネスもグローバルしており、中国人オーナーの偽物工場がベトナムにあって、ベトナムで製造された模倣品がカンボジアを経由してタイに持ち込まれて世界のマーケットに拡散される、といった例が主流になってきています。
また別の業務では、中小企業やベンチャー企業のために、安価に購入できる特許や商標を探し、権利として購入してもらい、権利の網を作るような提案も行っています。日本企業と米国企業では知的財産権取得に考え方が異なり、日本企業では多くのものを開発し早期に権利を申請しますが、米国企業は1つの発明について開発者と弁理士が半年以上の長期にわたり議論を重ねた上で権利を申請します。そのため、米国では特許数は僅かだが、僅かな特許数で莫大な特許料を得ている開発者がいるのに比べ、日本では企業が特許取得したものの90%以上が実用化に至っていないケースも散見されます。日本には過去に取得したが使い切れていない権利を売りたい企業が存在し、反面、コアの権利を1件取得するのに費用や労力で苦労している中小企業やベンチャー企業が存在します。そこで関連する登録済の特許を我々が探して中小企業やベンチャー企業に保有してもらうことで、申請にかかる費用を多少安く、そして何と言っても申請から登録までの時間を買えるといったメリットある提案もしています。このように事業内容や会社の規模にあわせて、どのように海外での知財法務をアドバイスできるか、これを経験してきたのが当社の強みであり、他社とは違うところです。
※ホームページ
Masuvalley and Partners   http://www.masuvalley.com  (新銀行東京取引先)
 
※連絡先
西田 朋代 氏  t.nishida@masuvalley.com
 
 
聞き手=都民銀商務諮詢(上海)有限公司 蓑田
お問い合わせは tomin_shanghai@tomin-bc.com.cn まで
 

 

 

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 

 

 
 

 

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