中国進出インタビュー

第 54 回「ニッポンの安心を世界へ」株式会社 辰巳菱機
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代表取締役 近藤豊嗣氏
中国では人件費や家賃など製造コストが上昇し、「中国におけるモノづくりの時代は終わった」と多くの方が考えていらっしゃるのではないでしょうか。
実際に中国での生産量を下げ、ASEANで新たな工場設立を検討している企業もあります。では、中国でモノづくりを続ける理由は何か?中国ビジネスをどう考えていくべきか?現在も中国で生産活動を続ける株式会社辰巳菱機代表取締役の近藤豊嗣氏にお話を伺いましたので、ご紹介致します。
 

 

 

 

  

 
 

◆ 当社事業について
日本本社の株式会社辰巳菱機は、非常用・防災用自家発電設備の負荷試験装置の開発や負荷試験の請負事業などを展開しています。
日本では消防法に基づき、一定規模以上の建築物には非常用発電設備の設置が義務付けられています。この非常用発電設備は万が一の稼働に備えて、定期的な点検・整備が必要です。人間の身体も血液が循環しなければいけないように、発電設備も定期的に電力を循環させなければ、万が一の時に稼働しなくなります。そのために保守点検が必要であり、作動検査の際に発電した電気を処理するための媒体として負荷試験装置が必要となります。
日本では、従来この負荷試験装置に水を使用してきましたが、水を使った作業は感電などの危険を伴います。世界では同様の作業に水を使用しない、いわゆる乾式と呼ばれる負荷試験装置が主流でした。しかし世界の乾式負荷試験装置は「低圧」にしか耐えられない弱点があったため、当社で「高圧」に耐えられる乾式負荷試験装置を開発しました。現在日本では乾式負荷試験装置が主流となっており、原子力発電所に設置された非常用発電設備の負荷試験にも当社製品が採用されています。
 
◆ 開発について
この乾式負荷試験装置は私(近藤社長)が開発したもので、現在は日本だけでなく、世界各国で100近い特許を取得しています。私は小さい頃から想像力を使って、新しいものを自分の手で作るのが好きで、現在もこの新しいことを想像する、新しいものを作りたい性格は変わっていません。
また学生時代から勉強は好きでしたが、大学は諸般の事情から卒業できずに除籍扱いになっていました。しかし、この年になり改めて大学で勉強する気持ちが湧いたところ、大学側も快く復学の手続きをして頂け、現在は情報電気通信分野の社会人コースに通学して、大学卒業を目指しています。近い将来、大学での勉強を活かし、更なる開発や研究成果の発表に繋げていきたいと考えています。
 
◆ 中国でのモノづくりについて
当社が開発した乾式負荷試験装置には、電気を流す媒体として高品質抵抗体(HQRFH)が欠かせません。昔この高品質抵抗体(HQRFH)を日本で調達しようとした際、日本で営業妨害等弊害が発生しため、日本での調達を諦めました。そして韓国から高品質抵抗体(HQRFH)を輸入する予定でしたが、輸入した韓国製は質が悪く、失敗に終わりました。
その後2002年~2003年頃に、縁あって、中国産高品質抵抗体(HQRFH)の試作品を輸入したところ、安価で良品だったことから、中国で高品質抵抗体(HQRFH)の製造と組立を行う工場の立ち上げを決め、2004年に上海現地法人/辰巳菱機(上海)電機有限公司を設立しました。
中国では人件費が上昇するなど、11年前と比較して経営環境は大きく変化しています。以前人件費などコストの上昇が続いたことから、中国以外の第三国へ移転を検討したことがあり、ベトナムなどアジア諸国も視察しましたが、工場設備やインフラは中国と比較して劣っている印象です。
また中国でモノづくりを続ける理由の一つに、中国では高品質抵抗体(HQRFH)の製造に必要な材料が日本と比較して安価で調達できることもありますが、なにより中国で10年以上工場運営してきたなかで育った中国人社員を今後も大切にしていきたい“思い”があります。社員の中には二十歳前後から入社してしっかりとした技術を身につけた若い中国人社員がいます。現在、この中国人社員の手によって、心臓部の部品を誤差±1%以内で製造することが可能で、日本本社に負けない高品質の製品を製作しています。この技術を身につけた人材がいる限り、中国から他国への工場移転は考えていません。
また日本本社では、自家発電設備の負荷試験時の発電電力を蓄電池に貯めることが出来る試験装置を開発しました。今までの負荷試験は熱を出すだけでしたが、今後はその熱を貯蔵し、家庭でも車でも使えるようリサイクルするものです。この新たに開発した製品を、日本だけでなく世界へ広めていきますが、この蓄電に必要なリチウムバッテリーが中国で安価に調達できることもあり、今後も上海現地法人の重要性は変わりません。今後は、日本本社と上海現地法人がそれぞれの役割を果たし、製品を日本だけでなく、世界へ発信して参ります。
 
◆ 中国の模倣品、中国ビジネスの考え方について
中国国内の販路開拓を考えた場合、中国では安全管理の認識が日本よりも希薄なため、非常用・防災用自家発電設備の負荷試験装置についても、良質なモノよりも、安価なモノを求める傾向にあります。そのため、中国国内では当社製品を模倣した安価な製品が出回っています。しかし当社製品の模倣品は、真似しようとしても真似しきれずに不良品となっているケースをよく聞きます。その結果、中国で製造されている新幹線の動力装置試験には、安心を求めて当社製品が採用されています。模倣するにも机上の論理だけでは製品は完成せず、モノづくりのポイントまでは模倣されないものだと感じています。
過去10年間中国ビジネスを続けてきた中で、中国人に騙されたケースもありました。しかし中国人でなくとも、日本人でも韓国人でも騙す人は騙します。また、日本が過去中国に対して行ってきたことを考えますと、日本人は中国人を騙すよりは、中国人に騙された方が良いとも考えています。しかし、この10年振り返ってみると、中国とビジネスで関わって、損よりも得をした気がします。
 
※企業情報(URLご参照)
株式会社辰巳菱機ホームページ:http://www.ttmrk.co.jp
 
❒ 取材を終えて
昨今、中国から第三国への移転の話題を良く聞きます。移転を考えた場合、設備は簡単に移転出来ますが、人材は簡単に移転出来ません。近藤社長のお話の通り、若い時から長年働いている優秀な社員は、国籍に関わらず、会社の重要な財産です。今後も、製造コスト上昇を上回る新規開発を続けられ、中国人社員と共に長くモノづくりを続けられることを願っています。
 
 
聞き手=都民銀商務諮詢(上海)有限公司 蓑田 光
お問い合わせは tomin_shanghai@tomin-bc.com.cn まで

 

 

 

 
 
 
 
 
 
 
 
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