中国進出インタビュー

第 52 回「健康で長生きできる社会へ」白寿医療器械(蘇州)有限公司
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<写真中央が青山総経理>
13億人の人口を抱え、急速に高齢化社会へ向かう中国に対して、高齢者向け商品・サービスにビジネスチャンスを見出す日本企業が最近増加しています。今後高齢者向けビジネスの発展が期待出来る中国で10年以上前から事業展開しているのが、電位治療器のパイオニアである株式会社白寿生科学研究所中国現地法人/白寿医療器械(蘇州)有限公司です。
今回は白寿医療器械(蘇州)有限公司の青山総経理に、中国ビジネスの苦労や中国現地法人運営の秘訣についてお話を伺いましたので、ご紹介致します。
 

 

 

 

  

 
 

◆ 中国現地法人の経営改善
私が中国現地法人の総経理(現地責任者)に就任時には、中国現地法人は北京事務所と蘇州工場があり日本人駐在員も数人在籍していましたが、事業運営は赤字続きで深刻な状態が続いていました。
現地の弊社商品の電位治療器「ヘルストロン」は高額商品でありながら不良品率が異常に高く、経営上の課題となっていました。総経理就任後にその不良品率の原因を調べたところ、なんと不良ではなく中国人工場長が単価の高い商品を自宅に持ち帰り、個人で販売して稼いでいたのです。更に問題なのは、この状況が日本人副総経理も含め組織的に行われており、その他領収書偽造、取引業者から収賄は常態化し、経理担当の横領、社有車や会社のクレジットカード個人利用などの不正が蔓延していたことです。
これではいくら働いても黒字になるわけがありません。この状況を改善させるため私がとった方策は、まず管理職の立場にあった日本人を全員解雇、その後時間差を取りながら中国人従業員全員を解雇しました。その間ストライキや競合他社への機密情報流出、解雇された社員による新たな従業員への嫌がらせは日本では考えられないようなことばかりでした。新入社員の車のタイヤのパンクや工場内にある食堂の昼食に洗剤を混ぜるなどの行為には、これが中国かと思い知らされました。これらの嫌がらせに対して、私はかなり強い態度で臨みました。結果として新しい従業員の前で毅然とした態度を見せたことが、新しい従業員に対して総経理の命令が絶対であることを理解させ同時に安心感を与えることが出来た気がします。
現地法人の刷新は徹底的に且つ迅速に進めました。採算性のない営業部門の北京事務所は閉鎖し、蘇州の工場内に設置。日本でいう主任以上の新人は注意深く選定し全て私が面接しました。最初の取り掛かりは、会社近郊に所在していた日本の大手製造業が生産ラインの半分を東南アジアへ移転する話を耳にしたので、私自身でその製造業の中国人副総経理へ直接電話してヘッドハンティングを実行しました。説得には時間が掛かりましたが、私の熱意を理解してくれ引き受けてくれました。その後は、彼を通してその日系企業の品質保証部門や製造部門など信頼できる部門長を次々引抜き、結果として彼らを採用した翌週には停止していた弊社工場内に大手製造業並みの製造ラインが出来上がっていました。従業員を教育するには時間がかかります。他社から日本の教育を受けた従業員を引き抜くことで事業を素早く立て直すことが出来ました。更には弁護士までも紹介してもらい、解雇した従業員との間に抱えていた多くの労務問題を片づけました。まとまった人数の社員を解雇したため経済補償金の支払いだけでなく労働仲裁や個別の慰謝料や損害賠償など訴えられ多くの訴訟を抱えていましたが、さすがに大手日系企業の弁護士らしく全て解決してくれました。彼とはこれを機に意気投合し今では弊社の顧問弁護士だけでなく、ビジネスにおいて総経理助理として私を支えてくれています。現地法人の刷新には2年半もの時間が費やされましたが、私が総経理に就任する前と現在を比較して売り上げは10倍アップ、従業員も3倍以上に増えるなど中国現地法人の経営刷新に成功したのです。
 
◆ 中国現地法人運営の秘訣
日本人が中国で会社運営する際、日本人が何でもやろうとすると上手くいきません。中途半端な日本人が赴任したところで中国人に勝てるわけがありません。気が付けば会社自体乗っ取られてしまった話は珍しくありません。弊社では日本人駐在員は一人もいません。日本人と中国人では歴史的にも地政学的にも現在までの成り立ちが全く違います。異民族同士が数千年も生存競争を戦い抜いてきた大陸の考え方は日本人には到底理解できません。日本人が会社運営ですべきことは、現地の人間のマネージメントです。いかに中国人の特徴を理解して彼らをうまく活かすか、または巻き込むかです。更に経営者の人間力がカギとなります。
経営を刷新して全従業員を入れ替えた弊社ですが、新しく雇用した従業員もいずれは不正を起こすと考えています。これは飽くまで私達日本人の目から見ての不正で中国では当たり前のことかもしれません。何千年もの生存競争を経ての副産物としてそのような文化が自己防衛として根付いてしまったかもしれません。文化として不正が行われてきたので、これをゼロにすることは出来ません。日本でも細かな不正などはよくある話です。弊社では従業員給与を他社より幾分高くし、就業時間を他社よりも短く設定しています。残業はさせません。その代り仕事に丁寧さと正確さを要求します。更に礼儀を重んじるようにし、日本語教育をし、工場内では必ず日本語で挨拶させます。そして言葉は悪いですが、私には絶対に服従させます。中国人はアメリカ人と似たところがあって自分にとって利益をもたらすとか強いものには服従する傾向があります。つまり弱いところを見せたり、彼らに十分な給料を出せない経営者とわかるや否やすぐに有能な社員は辞めてしまい、そうでない社員は足りない分を補おうと不正をします。将来に不安を覚えれば今取れるところからとっておこうというというわけです。今の中国も戦後共産党によって建国されたばかりで、まだ66年しかたっていません。中国人達も今の経済成長が未来永劫続いていくとは思っていません。その証拠に中国の高級官僚達やお金持ちが海外へ莫大な資金を蓄財する話や家族で移民してしまうのがそのよい証拠ではないでしょうか。
さて一般労働者に話を戻しますが、中国人労働者とって良い労働環境が整っていれば、従業員は大きな不正を行いません。大きな不正が行われていなければ、多少のことに目をつぶる意識も大切です。不正を知っていて知らないふりをするのは彼らにとってかなり効果的です。経営者の把握する範囲内での不正は不正と捉えないほうがいいと思います。もっとも怖いのは経営者の目の行き届かないところでの不正です。これはウィルス同様蔓延し、気がつくと重病になるように取り返しがつかなくなります。
私自身過去中国以外の多くの国々でビジネスを行ってきましたが、中国人の思考はまさに大陸の考え方でアメリカ人に似ています。合理的で常に競争意識を持っており、島国の日本の料簡だけでは理解できないところは多くあります。

 

◆ 中国現地法人の戦略
弊社が売上を伸ばしているのは、単純に高齢者マーケットが拡大しているからではありません。当然ながら需要が増えれば、競合相手も増えます。中国では弊社商品の模倣品が多く、そして安く出回っています。またそれは中国人だけでなく、韓国人や台湾人も同様にこの業界に参入してきています。販売方法も詐欺じみた行為もあるので、まかり間違うと一蓮托生で真面目に臨床研究を積み重ねてきている我々も同等に見られてしまいます。模倣やコピー商品そして違法販売行為という法定外のことをする競合相手に対して、日本流マネージメントだけで勝てる訳がありません。
中国で売上を伸ばすためには中国に合った戦略が重要です。郷に入れば郷に従えという言葉がありますが、日本人は郷に従い過ぎです。商売相手に優しすぎです。戦略をたてるためには、相手を研究するのが大切です。弊社は8年も前からたった1社の販売代理店としか取引がなかったため、販売代理店の言いなりにならざるを得ない分の悪い取引条件に縛られてきました。日本円で常時5千万円以上あった売掛金はいつ回収できるのかさえわからず、人件費原材料費が高騰し、製造原価にも影響がでて卸価格を値上げする必要がありましたがそれはかなわず、8年間1角も値上げを認めてもらえませんでした。努力した割には利益が上がらない、まさに不平等条約でした。しかしそれは中国の代理店のせいだけではなく、我々が新規開拓を怠り、それにどこか甘んじてしまい知らぬ間に1社の代理店へ依存する体質になっていったのも事実です。
この中国の巨大マーケットで中途半端な販売会社1社だけに運命を委ねることは自殺行為です。複数の代理店とバランスよく取引をすべきです。我々は有利に交渉をする為に、既存代理店の売り上げの3割が弊社の製品になるまでそれを促進し根気強く待ちました。昨年ようやくそれが達成できたのを機に値上げ交渉、販売契約内容見直し、新たな販売先との契約、自社での直販開始など今までタブーとされてきた事を一気に行いました。既存の販売会社は沿岸部に強いが売り上げは頭打ちだったので、内陸部に強い販売会社との取引を開始、弊社の所在地である蘇州無錫エリアには直営店を設置しバランスよく販路を配置しました。新規の販売会社が出来たことによって既存の販売会社をけん制することもできます。また販売会社同士で適度な緊張感を持たせることで販売を促進させることができます。その間弊社は地元に直販ルートを着々と構築していくのです。このように取引先を徹底的に研究し、弊社が代理店に頼るばかりでなく、代理店が弊社とは取引解消できない関係を作り上げ、弊社の発言力を強めることに成功しました。弊社のように投下できる資本と人材が限られている中小企業でも戦略次第で大企業のように中国現地法人の会社運営を成功に導くことが出来るのです。
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 <白寿医療器械(蘇州)有限公司>
最後に、中国でビジネスを行うためには、地元政府当局との円滑なコミュニケーションが最も重要であることを付け加えなければなりません。弊社商品は医療機器に該当するため、国家医薬品食品監督管理局(薬管局)の認可が必要です。それを痛切に感じさせられたのが昨年秋、地元蘇州の薬管局の人間が弊社を突然訪問し、突如工場の操業停止と在庫全ての没収を命令してきました。単価の高い弊社商品を没収されてしまうと、大きな損失だけでなく企業が存続できなくなります。当時私は経営基盤を立て直すことばかりに気を取られており、このことがすっかり抜け落ちていたのです。役人からの通達文書を見たときこれも中国かと体中の血液が抜けてしまったような脱力感を覚えましたが、その時は既に有能な中国人数人を幹部に据えていたのと弊社の設立は15年前になるので、当時の担当だった役人達が今ではそれなりの高い地位についていたことも幸いし、努力の結果何とか役人対策は功を奏し、切り抜けることが出来ました。改めて地元政府当局とのコミュニケーションの大切さを感じる出来事でした。現在は地元政府当局とのコミュニケーションを重要視して会社運営を行っています。
今後も弊社は日系メーカーであることの強みを活かし、商品開発、臨床研究、高品質の製品づくりのみならず、中国各地域にバランスよく中国の販売会社と契約をしてマーケットの大きい中国国内で盤石な経営基盤を構築し、事業拡大を図って参りたいと思います。
 
※企業情報(URLご参照
日本本社/株式会社白寿生科学研究所
ホームページ:http://www.hakuju.co.jp/index.html
中国現地法人/白寿医療器械(蘇州)有限公司
ホームページ: http://www.hakuju.com.cn/
 
❒ 取材を終えて
中国では最近、飲食店を中心に日本流のサービスが評価されています。しかし日本流の営業やサービスを提供する日本企業全てが中国で成功している訳ではありません。日本で培われた会社運営方法全てが、中国で当てはまるものではありません。中国で成功するためには、時には日本の常識とは異なる強い姿勢と、困難を乗り越える強い気持ちが必要です。強い姿勢で経営改善し、中国で業務発展を続ける当社の話を聞き、改めて痛感させられました。
 
 
聞き手=都民銀商務諮詢(上海)有限公司 蓑田 光
お問い合わせは tomin_shanghai@tomin-bc.com.cn まで

 

 

 

 
 
 
 
 
 
 
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