上海駐在レポート

第 78 回「深センから見た香港 part2」
先月の10月号では、深センから見た香港の地理や歴史、概要をお伝えしました。香港は、国際的に開かれており、深センとの繋がりも非常に強い都市です。一方、これまで堅調に成長してきた香港にも変化が起きているものもあります。今月号では、香港と深センでのオンライン決済方法の相違についても焦点を当てレポートします。
 
○ 深センの成長と香港の役割について
1. 輸出拠点としての香港
経済改革当初、日系を含む外資企業は安価で大量な人材を求め、深センをモノ作りの場所と捉え次々と工場を建設しました。そして、深センを生産拠点に自国やその他貿易相手国へ輸出するというビジネスモデルを確立しました。それと共に存在感が徐々に高まっていったのが香港です。香港は、東南アジアを初め世界各国へのアクセスが良く物流面で優れていることや税金が他国と比べ低率となっています。中国の法人税は25%ですが香港では16.5%であること、また香港では消費税や地方税等も無く税金の種類自体が少なく手続きも煩雑で無いことなど、税制が非常に簡素になっている点も魅力として挙げられます。深センにおける特有のビジネスとして挙げられる来料加工(外資法人の香港子会社が中国・広東省の法人に対して原材料を無償支給して加工を委託する取引)は、各企業の香港拠点があればこそ成せるビジネスモデルと言えます。このように、香港を輸出拠点とし深センでは安価で大量な人材を活かす事が経済発展の1つの要因となりました。
2. 自由度の高い香港
深センは、人材確保の面で利点があるものの、中国の都市ですので貿易を行う際には様々な中国国内の規制に縛られます。特に金融面では、中国国内にある資金を海外に自由に送金する事も制限されるなど規制も多い分野となります。これは中国から資金が流出し、元安になる事を防ぐためももちろんですが、マネーロンダリング、不正送金をさせない様にするためでもあります。また、外貨を人民元に両替できるのは年間5万ドル(約550万円)相当までとなっており日本円で給料等を受け取っている駐在員の方の不便もよく聞きます。
こういった点を解決する際にも香港は注目を集めていきました。例えば、各企業が中国国内で稼いだ資金を直接東南アジアへの投資資金として使いたいという企業は、その場合グループ会社である香港法人に配当等の形で還元さえすれば、その後の資金使途は自由になります。この様に中国国内で不便を感じている日系企業は、金融面での自由度を得る為に香港を重要な拠点として利用してきたのです。
 
○ 現在の香港の位置付け
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<各データを基に筆者作成>
しかしながら現在では、その確固たる香港のポジションに揺らぎが生じており、香港の経済的存在価値の低下が取沙汰されています。近年、深センの人件費や工場の賃料が上昇しており、深センを単純なモノづくり拠点とするには限界を迎えていると言われています。また日系を含め各外資企業の中には、香港を経由しない中国国内を市場として捉え始める動きもあります。その結果、これまで輸出拠点として活用されてきた香港の重要性は次第に薄れています。
実際に深センの輸出推移を見てみますと2015年には、加工貿易(材料・半製品を日本や香港から輸入し、これを中国国内で加工後、製品として輸出する貿易)のシェアが一般貿易のシェアに逆転されるまでに至っています。
※右図上段「深センの貿易種別シェア推移」参照。
上述の通り、香港の役割や期待は変わらずとも、その重要性に変化が起きているのです。
海上輸送でのコンテナの取扱いも香港を中継しないで中国から直接に中国国外への貨物の運輸増加に伴い、2013年以降、深センが香港のコンテナ取扱量を上回っており海運貨物のハブとしての香港の位置付けが変わってきています。
前月のレポートでも述べましたが2017年には、深センが香港のGDPを追い抜くとの見込も出てきており、香港に支えられてきた深センも独り立ちを始めているとも言えます。
※右図下段「世界コンテナ取扱量ランキング」参照。
 
 
○ 香港と中国のWe chat pay
現在、中国ではWe chat payという約9億人が利用しているオンライン決済方法が日常の決済の主流となっています。
We chat payはスマートフォンアプリのWe Chatを使って、飲食店やアパレルショップなどの決済登録された店やタクシー車内でQRコードを提示する、または読み取る事で決済することができます。支払いはデビッド型となっており、アプリで紐づけた銀行口座から直接引き落とされる形になっています。We chat payは、日本を初めとして各国でも使用できる店舗が最近増加しており、香港でも使用可能となっています。中国のWe chat登録者が香港でWe Chat payを使用する際は、自動的に人民元で支払いが行われ、受け取る香港の店舗などは香港ドルを得る事が出来るシステムとなっており両替をする必要がありません。
また、中国でWe chat payを使用する際には、中国国内のどの銀行の口座でも紐づけが可能です。
一方、香港でWe chat payを利用するために紐づけ可能なのは、VISA、マスターカードのクレジットカードと中信銀行(国際)、大新銀行のキャッシュカードに限定されています。その影響もあってか、中国人の香港でのWe chat pay利用者や利用額はまだまだ決して多くないと言われています。香港での小売売上高の1/3が中国人や中国国内からの購入との統計もあり、更なる顧客を取り込むために、上記に挙げた以外の銀行キャッシュカードとの提携に向けて香港管理局が調整を進めています。最近では、香港にある約900店舗以上あるセブンイレブン全店で人民元建てのWe chat payが使える様になるなど今後は、香港での利用の拡大も期待されています。
 
○ まとめ
10月、11月号のレポートでは、深センにとっての香港の位置付けの変遷をレポートしてきました。香港がこれまでの様に経済成長を継続させるのは難しいという意見は目立ってきているものの、やはり国際的な金融センターである香港の位置付け、活用法を見直す動きも出ています。
その1つとして深センを含む広東省、香港、マカオと相互に連携し、インフラの相互連携強化、イノベーション力、金融機能の強化等を通じ、一大都市圏の形成を目指す「広東・香港・マカオ大湾区計画」というベイエリア建設計画が策定され、2030年までに世界トップのベイエリアを目標に掲げています。今後より一層香港と、中国特に深センや華南地区との結びつきが重要になってくるのではないでしょうか。
 
 
 
以上 
深圳駐在 掛川 貴史
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