上海駐在レポート

第 73 回「紅いシリコンバレー ~深セン~」
筆者が駐在している深セン市は、かつて人口わずか3万人程の漁業の街でした。それが今では中国の経済特区のひとつとなり、今も急速な経済成長を遂げています。通称『紅いシリコンバレー』と呼ばれ、世界屈指のエレクトロニクスの街として注目を集めています。
今月は、なぜ深センが『紅いシリコンバレー』と称されるかレポートしたいと思います。
 
○ 深センが『紅いシリコンバレー』と呼ばれる理由
深センは、1980年に中国初の経済特区に制定されました。市の南側には世界市場の窓口となる香港があり、また海に囲まれているため貿易に有利な都市と言われています。
経済特区に指定されて以降、香港の多くの企業が深センに次々と工場を建て始めました。こうして香港を経営と管理拠点に、深センを製造拠点として貿易を行うビジネスモデルが生まれました。
そして、サプライチェーン(原料の段階から製品やサービスが消費者に届くまでの全てのプロセスの工程)が整っていることが大きな要因となり、日本を含めた多くの外資系企業が投資を始めました。
深センを中心に、様々な部品や材料の調達を行い、多くの新しいアイデアが生まれ、また短期間で製品化することが出来ることから、深センは中国を代表するナショナルカラーである紅色を使用し、『紅いシリコンバレー』と呼ばれるようになりました。
 
○ 『紅いシリコンバレー』を代表する企業
深センが急成長した理由として、大手の中資系・台湾系の企業の成長も欠かせません。「紅いシリコンバレー」としての深センをフル活用した企業の1つに、台湾資本の鴻海(ホンハイ)精密工業があります。日本では、シャープを買収した企業としてご存じの方も多いと思います。当社は、1974年に郭台銘氏が創業し、金型の製造加工、パソコン本体の製造を行っていました。1988年に深センに工場を完成させ、当時破竹の勢いであったiPhoneの製造拠点として世間の注目を集めていき、世界でも有数の企業へと成長していきました。
この他に深センに本社を置き急成長している企業も増加しており、その中でも代表的な4つの企業を紹介します。
 
・ファーウェイ(華為技術)
1987年に、中国人民解放軍出身の任正非氏が設立した世界最大級の通信機器メーカーであり、スマートフォンやタブレットの他に基地局設備やネットワーク構築など通信全般にわたる事業を世界で展開しています。創業時はわずか従業員5人程度で、企業資金はわずか2万元(約33万円。1元≒16.5円)だったそうです。2015年にはサムスン、アップルに次ぎ、スマートフォンメーカーとしてシェア率が全世界3位となっています。
 
・BYD(比亜迪)
1995年に王伝福氏が設立し、中国を代表とするリチウムイオン電池等の製造メーカーです。独自の技術力を活かし、今はEV(Electric Vehicle:電気自動車)や電気バスを手掛けています。2008年には世界初の家庭用コンセントで充電可能な量産型プラグインハイブリッドカーを発売し、ウォーレン・バフェット氏(著名な米国投資家)が将来性を認め、2億3000万ドルを投資しました。現在では、中国で最も売れているEVメーカーとなり、中国政府の環境規制や補助金を追い風として今も急成長を続けています。
 
・テンセント(騰訊控股)
今や7億人の月間ユーザーを抱える「We Chat(微信)」を配信する当社は、1998年に馬化謄氏が株式投資で稼いだ資金を基に起業しました。アリババ(阿里巴巴)やバイドゥ(百度)と並ぶ中国インターネット3強の一角を占めており、時価総額は、26兆円相当に上ります。メッセージ機能だけでなく、決済機能、送金、ネット通販等様々な手続きがアプリ上で完結させられる中国人にとって欠かせないものとなっています。現在、深セン市に50階建の新本社を建設中です。
 
・DJI(大疆創新
ドローンで有名な当社は、2006年に香港科技大学を卒業したフランク・ワン氏が創業しました。2016年の売上高は100億元(約1,650億円。1元≒16.5円)にのぼり過去2年間で3倍になったと言われ、全世界のドローン市場の70%以上を占めています。
当社製ドローンは「ファントム」と呼ばれ、日本の家電量販店でも手軽に入手する事が出来ます。当初ドローンは、空撮のみと利用は限定されていましたが、農薬散布や離島への配達、または、軍事的にも利用されるようになり、「ファントム」は新規市場を一気に開拓しました。
 
これらの企業に共通しているのは、大企業の大量生産に対応する大規模製造工場ではなく、小ロットで、複雑なオーダーにも応えられる機能を持ち合わせていることです。ドローンなどの複雑かつ小ロット生産を必要とするデバイスは、深センの各社の工場が最も得意とするフィールドといえます。
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<テンセント本社> <DJI本社> <DJI製ドローン:ファントム>
 
○ 電気街「華強北(ホアチアンベイ)」
深セン市には日本の秋葉原のような華強北と呼ばれる電化製品店街があります。
アジア最大級の電脳街として知られており、パソコン、家電、携帯電話、スマートフォン、その他OA機器、ドローンなど、電化製品で手に入らないものはないとも言われています。広さは、南北に約1km、東西に約1.5kmに及び、実際に行ってみると街の迫力、取り扱う製品の幅広さなど、どれをとっても秋葉原を上回っていると感じました。また、最近改装が終わったこともあり外観も綺麗になり、多くの人で賑わっていました。
華強北の中にある賽格(サイカク)電子市場は、総面積が56,000㎡で店舗数が3,000店舗以上と言われており、10階建ての建物内すべてのフロアが電子街になっています。ここでは、日本ではあまり目にかかれない様な電子部品も数多く取り扱っています。
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<華強北外観> <華強電子世界> <賽格広場内観>
 
○ 終わりに
このように深センは、急速にハイテク都市へと変貌しており、多くの優秀な若者が中国各地のみならず、近隣諸国からも集まってきています。製造業とインターネットの融合であるIoTを武器に本場アメリカのシリコンバレーに近付いていることは間違いないように感じます。一方で、まだ模倣の都市の域を出てないという意見も多くあるようで、筆者も実際に華強北へ行き色々見て周りましたが、規模や商品の量・種類には圧倒されたものの、確かに色々な模造品らしき物は見てとれました。『紅いシリコンバレー』が本場のシリコンバレーに追いつき追い越すときが来ることに期待し、引き続き注目していきたいと思います。
 
 
 
 
 
 (1元≒16.5円)
以上 
深圳駐在 掛川 貴史
お問い合わせは tomin_shanghai@tomin-bc.com.cn まで 
 

 

 

 

 
 

 

 
 

 

 
 

 

 

 

 
 
 
 

 

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