上海駐在レポート

第 72 回「春節について」
中国を中心としたアジアの地域には、春節と呼ばれる旧正月の行事が存在します。昨今では「爆買い」や「インバウンド」等、日本への中国人観光客がもたらす経済効果について多く報道がされており、日本人にも馴染みのあるものになりつつあると思います。2017年は1月28日から2月2日までの期間で、中国から約615万人が出国したと言われています。今月はこの春節を取り上げたいと思います。
 
○ 春節とは
春節とは「旧暦」でのお正月の事を言い、旧暦とは中国を起源とする暦で「太陰太陽暦」を意味します。太陰太陽暦は「太陰暦」とも呼ばれ、日本ではそれをもとにした「天保暦」が明治5年まで使われていましたが、明治6年以降の日本ではキリスト教により制定された「グレゴリオ暦(西暦、新暦)」が利用されています。
中国でも1911年の辛亥革命によりグレゴリオ暦に変わりましたが、太陰太陽暦は「農暦」とも呼ばれ、今でも人々の生活の規範です。日本で旧正月と呼ばれている時期を中国では「春節」と呼び、国定の祝日とされています。
 
○ 春節に観光客が増加する理由
昨今、海外への中国人観光客が増加している理由として、ビザの発給条件緩和が挙げられます。
中国には、中国人へのビザ発給に関して厳しい規定があり、2009年7月に個人観光客に対して観光ビザの発給を始めましたが、対象者の所得制限は厳しく、申請可能地域が北京市、上海市、広州市と限られていたため、都市部の富裕層以外に恩恵を得る中国人はあまりいませんでした。
それが2010年7月に所得制限が今までの年収25万元(約4,125千円)から6万元(約990千円)へ緩和されたことで、富裕層だけでなく中間所得層(いわゆる新富裕層)が個人観光ビザを取得できるようになり、これまでの10倍の1,600万世帯が発給の申請可能対象になりました。その後に日本向け観光客が急増していきました。
 
○ 中国人の春節の過ごし方
上記の様に春節を海外で過ごす中国人が多くなったとはいえ、出稼ぎで都市部に出ている人々が休暇期間中に帰省し実家で家族とともに過ごす方も大勢いらっしゃいます。そこで中国人の正月の代表的な習慣をいくつか挙げていきたいと思います。
 
・「春聯(しゅんれん)」を飾る
中国の春節の飾りつけは、赤、金と煌びやかな色合いの物が多く、日本のお正月飾り、門松・しめ縄・鏡餅などに値する春節飾りが中国にもあります。その代表的なものは「福字」・「春聯」です。
福字とは“福”と大きく書かれた飾り物で、家の門や壁に貼るもので、家によっては逆さまに貼ることもあります。中国では「倒」と「到」の発音が同じであることから、「倒福(福が逆さま)」=「到福(福が訪れる)」の意味を表すからです。 そこには新しい年を祝い、豊年を祈り、事業が栄え、人が健康であることを祈る言葉などの意味合いが込められています。
 
・金柑を飾る
広東話の「橘」の発音は「吉」と同じなので、「金柑」と同じ発音の「金吉」と言えば橘が「吉」、金は「財」を意味し、金柑は「吉祥と富をもたらす」といいます。
金柑は広東地方一帯で一番よい飾り物で、広東省や香港、広西チワン自治区などでは春節になると、金柑の木が置かれおり、ご祝儀がくくりつけてあります。
 
・爆竹、花火を鳴らす
中国では古くから魔よけなどとして、年越しの晩に爆竹を盛大に鳴らし、花火を楽しむ習慣があり、町中の人々が至る所で爆竹や花火をどんどん打ち上げます。
しかし近年、深刻化しているPM2.5等の大気汚染の関係で、花火・爆竹を全国的に制限する動きが出てきており、花火・爆竹解禁の時間帯でも、汚染が深刻な日は使用禁止となる場合もあります。年々打ち上げ禁止地域は拡大傾向にあり、違反者は数万元(数十万~数百万円)の罰金となるなどの動きも見えています。
 
・紅包
中国の「紅包」とはご祝儀やお年玉を入れる赤い袋のことを言い、中のお年玉を「圧歳銭」と言います。春節の時に目上の人から目下の者や子ども、又は既婚者の方から未婚の方にあげる赤い紙で包んだお金のことです。
未成年の人にお年玉を配ることは「願いと幸運を彼らに与える」ことを意味しており、お年玉は包んでいる赤い紙が幸運の象徴として重要な意味をもっています。
2014年から微信を利用して「紅包」を渡すサービスもはじまっています。同年の利用では2,000万件の利用でしたが、2017年では約460億件の利用となり中国のお年玉事情も変化してきているようです。
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<街中に飾られる赤い提灯> <建物の入り口に飾られる金柑> <紅包>
 
○ 広東省の春節
広東省観光局によると、2017年の主要観光地の経済効果は11億6000万元(約191億円)、訪問客は約1,263万人と言われており、春節を祝う連休中の農村部への家族旅行やイベントで、広州市や深セン市への旅客数、旅行・観光消費額が2桁増となるなど大きな賑わいを見せました。
その一方で、春節期間中に最も「空城(住人がいない)」になった都市として、深セン市に隣接する東莞市が挙げられており、広東省では東莞市、仏山市、広州市、深セン市の4都市が全国トップ10にランク入りしました。東莞市の空城率は約70%で、仏山市、広州市、深セン市では約60%の人々が故郷に帰省して春節を過ごしています。このように大都市には地方からの出稼ぎ者が多く、空城率が高い傾向にあります。
上記より引き起こされる問題として、1つ目は「世界の工場」とも呼ばれる広東省地域の工場群が約1~2週間にわたり稼働停止になる事があり、2つ目は工場労働者が長期休暇に入ったまま工場に戻って来ないという現象が発生することを日系企業からよく伺います。
このようなケースは珍しくなく、毎年中国でビジネスをする際の事業リスクの一つとして予め計算に入れておかなければなりませんし、春節後の従業員不足により、いつまでも営業を開始できなかったり、そのまま倒産したりすることもありえるのが現状です。
中国の従業員はより労働条件の良いところに転職しようと試みる傾向が強く、また労働環境も過酷なものでありますので、企業側も福利厚生をなるべく充実させて、労働者の流出を抑えようという動きが必要になるものと思われます。
 
○ 終わりに
筆者が駐在する深セン市では、いつもは賑わっている街中も春節期間中は殆どの店が閉まっていたり、交通量も少なくなっていました。中国全体でこのような雰囲気になるようですが、広東省は特に出稼ぎの方が多いためさらに閑散となるようで、日本の年末とはまた雰囲気の違った雰囲気を味わう事が出来ました。今後も中国ならではの文化に触れ、皆様にレポートしていきたいと思います。
 
 
 
 
 
 (1元≒16.5円)
以上 
深圳駐在 掛川 貴史
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