上海駐在レポート

第 66 回「現金を持たない中国人」
以前のレポート(2015年1月号参照)で、中国最大規模のオンライン決済サービス「支付宝(アリペイ)」についてご紹介させて頂きましたが、支付宝は今や中国人に限らず中国に住む外国人も活用する決済サービスとなりました。そのため、中国人も外国人も皆、現金を持たずに買い物や食事をする生活が一般的となっています。今月のレポートでは、こうしたオンライン決済システムの導入により大きく変貌を遂げた中国人のライフスタイルについて、ご紹介させて頂きます。
 
 
○ 支付宝と微信(ウェイシン)
≪2015年度 中国オンライン決済取引シェア≫
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中国でのオンライン決済システムは主に60%以上のシェアを持つ支付宝、約15%のシェアを持つ微信、合計75%のシェアを誇る二つの決済システムを中心に展開されています。支付宝は元々、中国ネット通販最大手「淘宝(タオバオ)商城」での商品購入時のツールとして開発された決済システムです。また、微信はメッセンジャー機能とSNS機能を融合したコミュニケーションアプリですが、2014年7月以降、中国政府により中国国内でのLINEの使用が制限されて以降、中国版LINEとして特に普及したコミュニケーションツールです。
この二つのツールがこうした元々の用途だけでなく、あらゆる面での決済機能を追加したことにより、支付宝と微信は今日、消費者の生活に欠かせない重要なツールとして存在しています。以下に使用例をいくつか紹介させて頂きます。
① コンビニやレストランでの支払い
写真①のように、お店のレジの前に支付宝や微信のマークがある加盟店では、自身で登録しているアプリのバーコード画面を読み取ってもらうことで簡単に決済が行われます。今では加盟していないお店を探すのが難しいほど、どのお店でも少なくとも支付宝、微信のどちらかの決済システムに加盟しています。先日、まだどちらの決済システムにも加盟していないある日系飲食店にお話を伺った際に、「店舗調査を行った際に、1週間に約100店舗で約2,200組の来店客から支付宝決済有無の問い合わせがあり、無いと答えたらそれだけで帰ってしまうお客が多くいた」という話を聞きました。その後急いで支付宝に加盟したようですが、決済システムの有無だけで顧客を流出させてしまったと嘆いており、決済システムによる影響力の高さが伺えました。
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 ≪写真①:支付宝や微信での決済可能という店頭表示≫  ≪写真②:微信での決済を推奨するお店≫
 
② 大衆点評への支払い
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≪写真③:最高1,234元のコース料理が298元に割引≫
中国のアプリには「大衆点評」という、レストランやデリバリーサービス、映画館、マッサージ、航空チケットの販売等、生活面におけるあらゆるサービスを紹介しているアプリがあります。このアプリには割引券を提供している店舗が多く、利用にあたっては支付宝や微信のような決済システムが必要となります。大々的に割引をしている店舗も多くあり、知らずに現金で支払っていると損をしてしまいます。
③ ユーザー同士の送金
送金機能は支付宝、微信それぞれでユーザーアカウントを持った者同士が資金の融通を行う機能です。前述のとおり、微信は元々コミュニケーションツールとして多くの人々が連絡を取り合っているため、この送金機能については支付宝よりも微信を利用して送金を行うケースが多いと筆者自身は感じます。例えば複数人で食事をした際に、一人が一旦まとめて会計をし、後で割り勘分をその人に精算するケース、旧正月の春節の際に紅包(お年玉)として友人や子供に送金するケース、またバレンタインデーに男性が女性に520元(中国語で「愛している」という発音に似ている数字)、1,314元(中国語で「一生一緒にいよう」という発音に似ている数字)を送るケースなど、時には愛情表現を示す時にも利用されます。
 
○ 社会信用スコア制度
支付宝のみにあるサービスに芝麻信用という、ビッグデータから各人の信用度を数字で算出するサービスがあります。評価の構成は①支付宝での支払い状況、②買い物や運用商品購入などの利用履歴、③資産背景、④学歴や職業などの身分の公開、⑤人との繋がり(登録ユーザーの数)の5つの要素で評価され、最低350点から最高950点の間で各人を評価しています。因みに点数が上がると以下の特典があります。
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≪写真④:参考までに筆者の点数は644点です≫

・アリババ系の旅行サイト「阿里旅行」でホテルを予約する際のホテルへの保証金が不要(600点)
・賃貸サイト「小猪短租」で敷金が不要(600点)
・提携する消費者金融等で審査がスムーズに通る。一部では利率も下がる(600点)
・全国展開のレンタカーサービス「神州租車」での保証金が不要(650点)
・上海図書館での保証金が不要(650点)
・シンガポールビザがとりやすくなる(700点)
筆者の周りの中国人スタッフにスコアを聞いてみると、大体が550~600点台で、若干の人が700点台という状況でした。尚、計算式については様々な要素からはじき出されており、詳しくは明かされていません。
このように支付宝では消費者の信用度を点数化することでゲーム感覚を覚えさせ、より一層支付宝の利用を促進するよう戦略を図っています。また上記特典でも挙げたように、社会信用スコアは賃貸住宅、ホテル、消費者金融などの領域でも広く応用されており、今後もさまざまなビジネスとのコラボが期待されます。 
 
○ おわりに
筆者は三年近く上海で生活をしていますが、変化の激しい中国の中で一番驚かされたのは、今回紹介した決済システムの普及です。初めて上海を訪れた時の印象に、「一番大きい単位のお札が100元札(1,530円)だから、お札のたくさん入る財布を買わないといけない」と赴任した際のレポート(2013年10月号参照)で触れていたことを思い出します。それが今となっては財布にお札が入っていなくても生活ができる程に、中国のライフスタイルが変化していることはただただ驚かされるばかりです。日本の技術にも負けない中国のIT技術の進化を引き続き注目していきたいと思います。
 
 
 
 

(1元≒15.3円)

上海駐在 小林邦寛
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