高考とは、「全国普通高等学校招生入学考試」の通称であり、毎年6月7日、8日に一斉に行われる中国の大学入試制度を言います。(省によっては試験科目が異なり、9日まで行われる場合がある)。2016年度は約940万人がこの試験に臨みました。日本の大学入試センター試験と類似する高考ですが、右表の通り、異なる点がいくつかあります。特に異なる点は、日本の大学入試の場合には、センター試験の後に大学毎の二次試験を受けることが一般的であるのに対して、中国の入試制度の場合、高考の試験結果のみで志望大学の合否が決まる点です。その為、高考の社会的注目度や受験生のプレッシャー、親の力の入れ様は凄まじいものがあります。
また、社会全体が大学受験に緊張するのは、中国が極度の学歴社会だからです。「良い大学に入る」→「良い会社に就職、良い待遇で働く」→「一家安泰」という意識が強く、また高考に至るまでのステップも「良い中学」→「良い高校に入る」→「高考で良い点を取る」、というように、さかのぼれば「良い幼稚園に入る」ところから高考に向けた受験戦争は始まると言われています。特に一人っ子政策により夫婦の老後は一人の子供に頼らなくてはならない為、一家の貯蓄を使い切って子供にハイレベルな教育を受けさせるといったケースも見られます。
このように大学入試への関心が高まる中で、商機を見出す企業が多く存在します。近年では高考経済という言葉が使われるほど、注目を浴びています。ターゲットとなる年代は高考を受験する高校三年生だけでなく、高考受験の準備期間となる幼稚園から小学校、中学校、高校の学生やそのサポートをする親の世代まで、幅広い世代が対象になります。その為、高考は中国の一大イベントとして広く認知されています。
注目される業界は主に学習塾業界、出版業界、食品業界、娯楽業界等です。
学習塾業界については、「補習班」と言われる学習塾への申し込みが殺到します。中国では中流家庭の子供10人のうち9人が大学入学試験前に2年間、「補習班」に通っている話も聞きます。中国人スタッフに伺うと、一般的に中国の高校では勉強に関係のない部活動というものは無く、基本的には夕方18時ごろまで授業をし、授業後も自宅や学習塾で2時間ほど勉強を行うようです。学習到達度調査においても、上海市の学生が宿題や学習塾の勉強に費やす時間は週14時間と、他国の学生に比べて最も高い数字となっています。高考を重要視する中国の教育制度が学習塾業界の成長を牽引していると言えます。
出版業界については、やはり参考書の販売です。高校三年になる学生や親が、来るべき高考に向けて大量の参考書を購入します。
食品業界については、健康的な食材やサプリメントの売上が好調となる話が挙がります。毎日机に向かう子供に少しでも良いものを食べさせようと、普段よりも良い食材を探し、栄養を付けさせる親も多いようです。普段の野菜市場からスーパー、スーパーから高級スーパーへと、大学入試の時期には中国受験生家庭のエンゲル係数は急上昇するようです。
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《6/16に開園を迎えた上海ディズニーランド》 |
最後に娯楽業界です。高考受験が終わり、長いプレッシャーから解放された子供に対して親は惜しみないご褒美を与えます。友達とのショッピング、カラオケ、遊園地、携帯電話やゲーム機の購入など、多少羽目を外しても親は何でも許してしまうようです。直近では上海ディズニーランドが6月16日に開園されましたが、もしかしたら高考受験終了を見込んでの開園だったのかもしれません。
また娯楽業界で特に人気が高いのが海外旅行です。先月号でもご紹介した通り、最近は日本を訪れる中国人観光客の数が急増していますが、6月の高考終了後から8月末までの夏休みにかけて更に旅行者は増加する傾向にあります。各国領事館の前にはビザ申請の為の家族連れが長蛇の列を作ったり、一回の旅行では10万元(約160万円)近く消費する家族がいたりするとも聞きます。