上海駐在レポート

第 64 回「大学受験と就活事情」
中国では毎年6月、高校3年生の子を持つ家庭には緊張が走ります。その理由は、「高考」と言われる大学入学試験が行われるからです。中国は日本と違い、毎年9月に入学、6月に卒業というスケジュールで学校教育が運営されています。その為、6月から9月にかけては次のステップに進むための準備期間となりますが、その6月の最初の週に行われるのが「高考」です。中国では極度の学歴社会とも言われており、親は受験生に対して惜しげもないサポートを行います。その為、そこに商機を見出す企業が多数存在します。
今月のレポートは中国の大学受験事情と共に、その周辺ビジネス、さらに就活事情について紹介したいと思います。
 
 
○ 高考とは?
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高考とは、「全国普通高等学校招生入学考試」の通称であり、毎年6月7日、8日に一斉に行われる中国の大学入試制度を言います。(省によっては試験科目が異なり、9日まで行われる場合がある)。2016年度は約940万人がこの試験に臨みました。日本の大学入試センター試験と類似する高考ですが、右表の通り、異なる点がいくつかあります。特に異なる点は、日本の大学入試の場合には、センター試験の後に大学毎の二次試験を受けることが一般的であるのに対して、中国の入試制度の場合、高考の試験結果のみで志望大学の合否が決まる点です。その為、高考の社会的注目度や受験生のプレッシャー、親の力の入れ様は凄まじいものがあります。
また、社会全体が大学受験に緊張するのは、中国が極度の学歴社会だからです。「良い大学に入る」→「良い会社に就職、良い待遇で働く」→「一家安泰」という意識が強く、また高考に至るまでのステップも「良い中学」→「良い高校に入る」→「高考で良い点を取る」、というように、さかのぼれば「良い幼稚園に入る」ところから高考に向けた受験戦争は始まると言われています。特に一人っ子政策により夫婦の老後は一人の子供に頼らなくてはならない為、一家の貯蓄を使い切って子供にハイレベルな教育を受けさせるといったケースも見られます。
 
○ 高考経済
このように大学入試への関心が高まる中で、商機を見出す企業が多く存在します。近年では高考経済という言葉が使われるほど、注目を浴びています。ターゲットとなる年代は高考を受験する高校三年生だけでなく、高考受験の準備期間となる幼稚園から小学校、中学校、高校の学生やそのサポートをする親の世代まで、幅広い世代が対象になります。その為、高考は中国の一大イベントとして広く認知されています。
注目される業界は主に学習塾業界、出版業界、食品業界、娯楽業界等です。
学習塾業界については、「補習班」と言われる学習塾への申し込みが殺到します。中国では中流家庭の子供10人のうち9人が大学入学試験前に2年間、「補習班」に通っている話も聞きます。中国人スタッフに伺うと、一般的に中国の高校では勉強に関係のない部活動というものは無く、基本的には夕方18時ごろまで授業をし、授業後も自宅や学習塾で2時間ほど勉強を行うようです。学習到達度調査においても、上海市の学生が宿題や学習塾の勉強に費やす時間は週14時間と、他国の学生に比べて最も高い数字となっています。高考を重要視する中国の教育制度が学習塾業界の成長を牽引していると言えます。
出版業界については、やはり参考書の販売です。高校三年になる学生や親が、来るべき高考に向けて大量の参考書を購入します。
食品業界については、健康的な食材やサプリメントの売上が好調となる話が挙がります。毎日机に向かう子供に少しでも良いものを食べさせようと、普段よりも良い食材を探し、栄養を付けさせる親も多いようです。普段の野菜市場からスーパー、スーパーから高級スーパーへと、大学入試の時期には中国受験生家庭のエンゲル係数は急上昇するようです。
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《6/16に開園を迎えた上海ディズニーランド》
最後に娯楽業界です。高考受験が終わり、長いプレッシャーから解放された子供に対して親は惜しみないご褒美を与えます。友達とのショッピング、カラオケ、遊園地、携帯電話やゲーム機の購入など、多少羽目を外しても親は何でも許してしまうようです。直近では上海ディズニーランドが6月16日に開園されましたが、もしかしたら高考受験終了を見込んでの開園だったのかもしれません。
また娯楽業界で特に人気が高いのが海外旅行です。先月号でもご紹介した通り、最近は日本を訪れる中国人観光客の数が急増していますが、6月の高考終了後から8月末までの夏休みにかけて更に旅行者は増加する傾向にあります。各国領事館の前にはビザ申請の為の家族連れが長蛇の列を作ったり、一回の旅行では10万元(約160万円)近く消費する家族がいたりするとも聞きます。
 
○ 就職難の学生
ここまで読んで頂くと、高考受験を乗り越えた学生には就職先も約束されていると思われるかもしれませんが、現実はそう甘くないようです。「良い就職先」には「良い大学」が求められますが、「良い大学」が必ずしも「良い就職先」に直結するわけではないようです。2015年度の中国国内の大学卒業者の数は過去最多の749万人でしたが、そのうちの約100万人もの学生が卒業時点で就職先や進路が決まっていない状況でした。日本の新卒大学生の求人倍率が1.73倍(仕事を探している人の一人当たりの求人件数が1.73件)と、日本が学生の売り手市場であるのとは対照的な状況です。
就職難の要因として中国政府の大学生増加策が挙げられます。この政策により、中国では大学生の人数がこの15年で約7倍以上になったものの、ホワイトカラーの求人数が追いついていない現状があるようです。一方で工場での労働者は人材不足となっており、企業側から見た需要と大学生からの供給にミスマッチが生まれている状態が今の中国の就職活動の実態です。
尚、就職先として人気のある業種は1位にIT企業(通信、電子を含む)、2位に金融機関、3位に政府機関が挙げられます(参考:中国大手就職サイト「智力招聘」によるインターネット調査)。IT企業については、中国国内のSNSの急速な普及により創業者が若くして立ち上げたベンチャー企業が成功し、中国を代表する三大IT企業(百度、アリババグループ、テンセント)の急成長など身近な事例が人気の背景にあると考えられます。
その他、中国人学生の中には就職活動を行わずに大学院への進学や、留学を選択する学生も増えており、卒業後の進路には様々なスタイルがあります。このような中国人学生の卒業後の進路については別途ご紹介できればと思います。
 
 
○ 終わりに
今回、高考受験を取り上げたきっかけとなったのは、筆者の職場にいる中国人スタッフが優秀な方ばかりだからです。中国の教育が、部活動もせず勉強ばかりの詰め込み教育という批判もありますが、受験戦争・就職難を勝ち抜いてきた中国人スタッフはやはり非常に賢く優秀な人材が多いです。先月号では、そんな中国の優秀な人材を日本で確保する為にビザ発給要件を緩和しているとご紹介しましたが、中国国内が就職難であるため日本などの海外に職を求める学生も今後益々増加することが考えられます。
また高考経済により注目される業界をいくつかご紹介させて頂きましたが、中国ビジネスの展開にあたり、ビジネス拡大のヒントとなれば幸いです。
 
 
 
(1元≒16円)
上海駐在 小林邦寛
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