上海駐在レポート

第 63 回「日本に行く中国人」
2015年度に日本を訪れた外国人の数は延べ2,000万人弱、その中、最多の旅行者を数えたのが中国人です。日本政府は当初、東京オリンピックのある2020年までに訪日外国人旅行者数の目標を2,000万人と設定していましたが、昨年の予想外の旅行者数の増加により、徐々に目標を引き上げ、今般2020年目標を4,000万人に引き上げました。また本格的な観光立国を実現する為に、更なるビザ発給要件の緩和、海外旅行業者との連携等、様々な施策に取り組んでいます。
今月は、訪日旅行者の動向や新たなビザ発給要件の概要、上海での訪日旅行のPR活動についてご紹介したいと思います。
 
 
○ 訪日旅行者数推移
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冒頭述べたとおり、訪日外国人旅行者数は年々急激に増加しています。外国人(特に中国人)による爆買いと言う言葉が定着された2015年には2,000万人に到達する勢いを見せ、今年は4月末時点で既に780万人(前年同期比プラス200万人)と、2,000万人を超える水準で推移しています。国別で見ると、中国、韓国、台湾といったアジア諸国が全体の8割を占めている中、中国のシェアは一国で25%を占めています。他国の前年比増加率が30~40%増に対して、中国は107%の増加率と、今や年間500万人もの中国人が日本を訪れます。尚、中国人旅行者数増加の要因には、日中関係の改善、昨年の円安進行、ビザ発給要件の緩和などが挙げられます。
日本政府は今後、新規旅行者数を増やす一方で、短期旅行者のリピーター確保や一定水準を超えた知識人や文化人、高所得者層の長期滞在を推進し、日本経済の底上げを図る方針を掲げています。
 
○ 対中ビザ発給要件の緩和
中国人が短期で訪日観光するには、中国の関連法令に基づき団体観光ビザを取得し訪問する「団体観光形式」と、少人数による自由な観光を行う「個人観光方式」に分かれます。個人観光におけるビザの種類には、訪問する度に都度申請が必要な「一次ビザ」と有効期間内であれば何度でも訪問することの出来る「数次ビザ」があります。
日本政府は今年に入って、一次ビザ、数次ビザの発給要件を緩和し、より多くの中国人を日本に呼び込む取組みを図っています。具体的な緩和内容は下記の通りです。
 
(1)商用目的の者や文化人・知識人に対する数次ビザ
→従来求めていた日本国への渡航暦要件の廃止や日本側身元保証人からの身元保証書等の書類要件を省略(2016年1月19日運用開始)。
→ビザの有効期間を現行の最長5年から最長10年に延長するとともに、発給対象者となる文化人・知識人の範囲を拡大(2016年4月30日公告、運用時期未定)。
 
(2)個人観光客の沖縄・東北三県(岩手・宮城・福島)数次ビザ(2016年1月19日運用開始)
これまでは中国人旅行客に対する数次ビザについては、その観光振興や震災復興のため、最初の訪日時に沖縄県または東北三県のいずれかの県に1泊以上する者に限り発給していました。しかし、1月に行われたビザ緩和要件では、その中の経済力要件を従来の「十分な経済力(年収20万元以上・約336万円以上)を有する者とその家族」という条件に加え、「過去3年以内に短期滞在での訪日歴があれば一定の経済力(年収10万元以上・約168万円以上)を有する者とその家族」に対しても数次ビザを発給することとしました。
また新たに、「相当の高所得(年収25万元以上・420万円以上)を有する者とその家族」に対しては沖縄・東北三県のいずれかに1泊することを要件としないで、数次ビザを取得できるようになりました。
 
(3)中国教育部直属大学に所属する学部生・院生及びその卒業後3年以内の卒業生に対する一次ビザの申請手続きを簡素化(2016年4月30日公告、運用時期未定)
主に学生を対象としたこうした緩和の動きは、日本国内の学生不足と関連性があるようです。学生不足が深刻な大学や大学院では、学部の廃止や学生の募集停止を余儀なくされ、教員の中にも失業の危機に直面する現実がある中で、中国の学生に是非留学に来て欲しいと期待しているようです。
 
このような日本政府による対中ビザ要件の緩和は、中国人旅行者の短期滞在による消費の活性化を促進することに留まらず、優秀な人材を日本に長期滞在させることで、新たなビジネス、雇用の創出を期待し、日本経済の振興を図っていく狙いがあると言われています。
 
○ 上海世界旅行博覧会
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≪上海世界旅行博覧会 日本ブースの様子≫
5月19(木)~22(日)に掛けて、上海で最大級の旅行見本市「上海世界旅行博覧会(WTF2016)」が開催されました。この展示会には世界50の国・地域から約750の団体が参加され、日本企業からも26団体が出展を行いました。主な参加団体は、各都道府県自治体や旅行会社、航空会社等でした。本展示会は毎年5月頃行われ、これから迎える夏季休暇や国慶節旅行商戦への大きな効果が期待できるとされています。本展示会の日本ブース内では「2つの多様化」というキーワードから中国人向けにPR活動を行っていました。
1つ目は「訪日旅行テーマの多様化」です。これまでの「桜、温泉、ショッピング」の3トップであったものに「美食」が追加された形です。中国人向けキーワードを「特色餐」とし、日本各地域ならではの食の魅力で差別化を図り、地方誘客強化に取り組んでいます。
2つ目は「訪日旅行商品の多様化」です。初めて日本に旅行する際にはゴールデンルート(GR)(成田空港から東京の主要スポット、その後富士山、名古屋、京都、大阪を巡り関西空港より帰国するルート)と呼ばれるツアープランが外国人旅行者の人気商品ですが、年々訪日リピーターが増加するにつれて、北海道、沖縄、九州等の地域への旅行に着目した商品が企画されています。その中でも2016年度は特に九州地区に力を入れているとの話を聞きました。4月の熊本地震により影響が心配されるところですが、観光庁によれば4月に九州を訪れた外国人は前年に比べても減少していないとのことです。更に現在は、格安で九州のホテルを利用できる旅行券など観光振興策をまとめており、九州全体で熊本を応援していく機運が高まっているようです。
 
 
○ 終わりに
外国人の訪日旅行者数が大幅に増加した2015年度は、様々な要因があるにせよ円安の進行が訪日旅行ブームの一つのきっかけであったと筆者は考えます。円安による海外旅行者数が増加する中で、免税商品の拡大、ビザ発給要件の緩和、無料Wi-Fi環境の整備等が行われ、徐々に外国人旅行者の受入態勢が整ってきた表れではないでしょうか。その為、受け入れる日本側としては宿泊施設や通訳ガイドの不足、アリペイ等の電子決済の導入等まだまだ整備しなければならない課題が残されています。
今後為替の影響に関わらず着実に外国人旅行者数を増やしていくには、政府と民間事業者間の連携が不可欠であり、一つ一つの課題をクリアにすることで、旅行者の満足度を高めることが求められてくるでしょう。
 
 
 
(1元≒16.8円)
 
上海駐在 小林邦寛
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