発票(ファーピャオ)という言葉は、中国駐在員は勿論ですが、出張や旅行で中国に来られる方にとっても耳慣れた中国語の一つではないでしょうか。英語ではInvoice（請求書）と訳しますが、場面によって領収書としての役割を果たします。しかし、中国の発票の本来の役割は「税務上の請求書」という意味合いが強く、日本の請求書や領収書とは大きく異なります。

今月は中国の発票の概要、仕組みや問題点等をご紹介致します。

 

発票とは、中国税務機関が徴税効率の向上や脱税防止を目的として発行する帳票です。日本のように企業が自由な形式で発行することは出来ず、税務機関から購入した法定の発票用紙を使用して発行しなければなりません。冒頭述べた「税務上の請求書」という意味は、企業は税務申告の際に税務機関に発票を提出する必要があり、売上や仕入代金、経費等は全て発票によって管理されているという意味を指します。例えば、仕入時の増値税控除や経費が認められるには、買い手企業は売り手企業より発票を発行してもらう必要があり、また売り手企業は発票を発行することにより必然的に買い手企業に対する売上を計上することになるため、売上を簿外処理することに対する牽制にもつながっています。

さらに、税務機関から購入する発票は連番で管理されており、発票の一部を抜いて税務申告を行っても、税務局に売上をごまかすことが出来ない仕組みとなっています。

 

税務申告を行わない一般消費者が買い手の場合、飲食店や小売店等の売り手企業に対する牽制機能が働かないと思われるかもしれませんが、発票は消費者に対してもよく出来た仕組みとなっています。それが発票の「宝くじ機能」です。

飲食業等の発票の一部にはスクラッチ式の宝くじが印刷されており、銀色でコーティングされた部分を小銭等で擦ると当たりかどうかが分かる仕組みになっています。このように消費者が宝くじを目当てに発票の発行を求めることにより、売り手企業に対する牽制機能が働いています。

尚、上海市の場合、宝くじの当選金額は5元、10元、20元、50元、100元、200元、500元、1000元、3000元、5000元、10000元とあり、はずれの場合には「謝謝您（ありがとう）」と表示されています。100元（約1,900円）以下の当たりくじは上海銀行所定の支店に身分証明書と発票を持っていくと換金することが出来、100元を超える場合には上海市税務局へ換金に行く必要があります。

中国には発票を代理発行する会社が存在します。中国に所在する企業は定められた経営範囲の中でしか業務を行うことは出来ず、発票の発行についても経営範囲内の業務内容に限られます。そのような法規制の下、企業が不当に経営範囲を超えた業務を行った際には、代理発行会社が代わりに発票を発行する形式がとられることがあります(もちろん違法です)。

また、中国の路上ではよく発票を販売している人を見かけることがあります。正式には対価を受けた企業から発票を発行してもらうことが当然ですが、企業の中には時に発票を発行しない企業もあり、そういった場合に発票の販売人は買い手企業や消費者等に活用されるようです。

尚、路上で販売している発票の中には偽物も混ざっていることがあります。偽物の発票では税務申告の際に増値税控除や経費が認められませんので留意する必要があります。上海市税務局のサイトには下記URLのような発票の真偽を判定するサイトがありますので参考にご紹介致します。

このサイトでは①発票代碼（発票コード）・②発票号碼（発票番号）・③税務登記番号を入力すると、発票を発行した税務局名、発行企業名が表示され、その発票が本物であると認識する事が出来ます。疑わしい発票を入手した際は是非ご活用下さい。

筆者が赴任間もない頃、中国の発票に宝くじ機能があると知った時には斬新な仕組みだなと非常に感心させられたことを覚えています。但し、これまでの筆者の最高当選額は5元（約95円）で、食事後などあまり積極的に発票を要求していませんでした。

今回、発票の仕組みについて改めて理解し、また上海市の最高当選額が10,000元（約190,000円）であると知りましたので、今後は漏れなく発票を発行してもらい、少しでも中国税務局の徴税に貢献できればと思っています。尚、宝くじのスクラッチ部分を削ってしまうと経費として認められなくなるため、会社の経費として落とす場合にはくれぐれもご留意下さい。