上海では10月から冬場に掛けて上海蟹が美味しい季節となります。その為、この時期になると国内外から上海蟹ツアーの旅行団体等、多くの観光客が上海を訪れます。

今月のレポートでは、この時期食べる機会の多くなる上海蟹の基礎知識から食べ方、市場での相場等をご紹介させて頂きます。

 

上海蟹の正式名称は「チュウゴクモクズガニ」と呼ばれ、中国全土に生息する淡水蟹の一種です。特に長江下流で捕獲されるものが上海蟹と呼ばれるものですが、「上海蟹」という名称も、実は中国では「大閘蟹(ダージャーシエ)」と呼ばれます。その理由は、上海蟹の産地が上海市ではないからです。上海名物といえば「上海蟹」と連想される方も多いと思いますが、実際は上海市近隣の江蘇省陽澄湖という湖で水揚げされるものが大半です。

上海蟹の生態的特徴は、①先天的に戦闘を好み、食物が不足すれば互いに殺しあうことも辞さない性格、②侵略的外来種として古くから有名であり、欧州では1900年初頭にドイツで確認されている他、イギリスやロシアでも発見されています。ドイツでは上海蟹が魚網を破るなどして数億円の損害を受けているとも言われており、ICUN(国際自然保護連合)の「世界の侵入的外来種ワースト100」にも名を連ねています。

しかし、そんな上海蟹も料理にするとこの上なく美味な食材として有名です。「10月の雌、11月の雄(中国語では旧暦で「九雌十雄」と表現)」と言う諺もあり、10月のメス蟹は蟹味噌と卵をバランスよく蓄え、11月のオス蟹はねっとりとした白子が美味しいと評判です。秋が上海蟹の季節と言われる所以は、夏に盛んに活動していた蟹が北からのシベリア風の寒さにより急に動かなくなり蟹味噌や肉が一気に蓄積されるからです。

また、「陽澄湖」 産の上海蟹が最高級品で一番美味しいとされていますが、その裏では「陽澄湖」 ブランドの偽物も多く出回っています。毎年、陽澄湖での漁獲量は約2000トン超ですが、ネット上で「陽澄湖産の上海蟹」と銘打って販売された数は1万2000トン以上という報道もあり、実際の漁獲量を大きく上回る量がネット上で出回っています。近年では、「陽澄湖」 ブランドを守るために本物には、蟹の爪に指輪(「原産地域商品保護標識」)をつけ、個体を識別しているとのことですが抜本的な解決には至っていないようです。

上海蟹の食べ方はチャーハン、野菜との炒め物、豆腐と煮込んだもの等、様々な調理法がありますが、一般的には蒸して食べます。蒸した上海蟹の値段は、大きさや食べる場所によっても異なりますが、高級レストラン等では1杯200元(約3,860円)程掛かる高級食材です。その為、食べるときには食べられる身の部分を残さず食べたいと思うのですが、上海蟹は食べづらい食材としても有名です。食べ慣れていない人はよく心臓や胃の部分等食べられない箇所を取り除いていると、食べられる身の部分等も一緒に取り除いてしまい、結果的に蟹味噌の部分しか残らなかったということも多々あります。レストランで上海蟹を食事する際は有料(10元程度（約193円）)もしくは無料で蟹を剥いてくれるサービスもありますので是非利用してみて下さい。



《銅川市場にある上海蟹の問屋》

 

前述の通りレストランでは値段の張る上海蟹も市場では非常に安く購入することが出来ます。そこで、上海市最大級の規模である「銅川市場(住所：銅川路800号)」を訪れ上海蟹の価格調査を行いました。ここは地下鉄11号線「真如駅」5番出口を出たところにあり、敷地面積は約14,000㎡、水産物に関する問屋が500～600軒ほど入っている上海市でも最大規模の市場です。

上海蟹の相場は体の大きい高級なものになると120元相当で販売しているお店もありましたが、1杯20～30元（約386～579円）が一般的です。他にもサーモン(500g)が35元（約675円）、ホタテ(1個)4元（約77円）、ハマグリ(500g)10元(約193円)等、上海市内のスーパーよりも安く購入することが出来ます。

また、市場で購入した海産物は近くのレストランに持ち込んで調理してもらうことが出来ます。調理費用は持込み量により異なりますが、2～3人前であれば80元（約1,544円）程度です。週末の夜は非常に込み合うとのことなので、平日や昼間の利用がお勧めです。

旅行者が旅行先を選定する際にその地域の有名な観光スポットを重要視するのと同様に、食の魅力も大事な選定要因となります。上海市で言えば今回ご紹介した上海蟹や小龍包等が代表的なものとなり、食事を主体とした観光ツアーも多く企画されています。また、その他中国各地にもその地域特有の食の魅力が多くあり、それぞれ観光誘致を図っています。日本では依然として中国に対してマイナスイメージの報道が多い印象ですが、食の観点から中国各地を訪問してみてはいかがでしょうか。