上海駐在レポート

第 57 回「国慶節の消費事情」

第 57 回「国慶節の消費事情」

中国において、毎年10/1~7日の国慶節(10/1、建国記念日)連休は、百貨店やスーパー等の小売業にとってかき入れ時となります。また、近年の元高により、この時期に海外旅行をする中国人観光客も増加してきています。
国慶節期間中に日本を訪れた中国人観光客は約40万人に達し、その内、最も多かった都市は上海市となりました。上海市の出入国管理局の統計によると、10/1~6日までに上海から日本に旅行をした人は延べ4万8200人と、海外旅行先としてはトップで海外旅行客全体の21.4%(前年同期比68.5%増)を占めました。
その為、国慶節の連休期間中は2月の春節同様に日本では中国人の「爆買い」報道が紙面を賑わせており、中国人の消費意欲がまだまだ堅調であることが窺えました。
今月のレポートでは、国慶節期間中の日本・中国の消費動向についてご紹介したいと思います。
 
○ 国慶節とは
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爆買いした中国人の様子(空港にて)
中国では毎年10/1を国慶節(建国記念日)として、1日を含めた7日までが大型連休となります。
歴史上では、毛沢東が1949年10月1日に北京の天安門で中華人民共和国の建国宣言を行った日とされています。
中国ではその他、旧正月にあたる春節の時期にも1週間の大型連休がありますが、国慶節や春節のように長期の休暇となると、多くの中国人の方は帰省や国内・海外旅行を行います。さらに旅行の場合、近年では元高の影響から国内旅行以上に海外旅行の志向が強い傾向にあります。某旅行サイトのデータによれば、中国人観光客を行先別でみると海外と国内の割合は3対2と海外旅行が国内旅行を逆転し、旅行会社の売上高も国内旅行の売上高が前年比1.2%増の1,780億元(約3兆3,820億円)と小幅な伸びに対して、海外旅行(香港、マカオ、台湾を含む)は15.1%増の1,330億元(約2兆5,270億円)と大きな伸びを示しました。そして海外旅行の行先の中でも、多くの中国人観光客が日本を訪れます。
 
○ 中国人の日本国内での消費
今年2月、中国の春節連休の際に日本に旅行する中国人が大量に買い物をする「爆買い」が社会現象となりました。今回の国慶節は春節後の上海株の乱高下、相次ぐ金利引下げ等の金融緩和による中国経済の景気減速が懸念されている中で迎えることとなりました。迎え入れる日本側も中国人の消費意欲の低下を懸念していましたが、ふたを開けてみれば中国人観光客の「爆買い」意欲は依然として健在とのことでした。但し、「爆買い」の恩恵を受けたのは東京や大阪の一部の大都市圏に偏っていたそうで、他の地方都市に今後いかに波及させていくかが今後の課題といえます。
地方都市への波及に関することでは、国慶節明けに同僚の中国人スタッフからクルージングで日本の九州地方を旅行したという話を伺いました。移動する船は、中国人が約4,800人乗る豪華客船とのことで、9日間で約10,000元(約190,000円)のツアーに参加したとのことです。寝泊まりは全て船上で、1日ごとに九州地方の福岡、長崎、熊本等に訪問して観光や買い物を楽しむようです。場所によっては、人口数十万人の都市に突然5,000人近くの中国人観光客が降り立つこともあり、人口大国ならではのツアー企画だと非常に驚かされたと同時に、中国人ツアーの消費が、どれだけ地方都市の景気に影響を与えるものかということを痛感させられました。
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4,800人収容の豪華客船外観

 
○ 銀聯カードの取引額の拡大と規制
日本での「爆買い」が盛んに行われている一方で、中国政府は9/29に中国国外での銀聯カードの外貨払出しを年間10万元(2015年は暫定措置として10~12月まで5万元の払出し)と制限する規制を発表しました。銀聯カードとは銀行口座とリンクしたデビット機能付のカードであり、現金主義を基本とする中国では一般的な決済方法として普及しています。近年では日本でも利用可能な店舗が増えています。
今回の規制はあくまでも銀聯カードによる外貨の現金引き出しに制限が掛かったもので、銀聯カードによる直接の決済には制限が掛かっていません。その為、東京や大阪等の大都市圏の多くの店舗では既に銀聯カードによる決済を導入しており、今回の規制による影響は少ないと思われます。しかし、インバウンドを積極的に推進する地方都市等で、未だ銀聯カード決済を取り入れていない旅館や店舗があると、今回の規制は今後大きく影響することになる可能性があります。
さらに今後、中国人の消費が国外に流れ、国内の消費が益々冷え込むことがあれば中国政府は規制を更に強化し、現金引き出しのみならず決済時の金額にも制限を設ける可能性も考えられます。そうなれば日本経済にとっては大きなダメージになるかもしれません。
 
  
○ 中国国内の消費動向
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商務部HPより筆者作成
今回の国慶節期間中の消費を中国全体でみると、重点商業・サービス企業の小売売上高は1兆820億元(約20兆5,580億円)と前年同期に比べ11%増加しました。下図の通り、年々伸び率は鈍化傾向にあるものの、2桁台の成長率を維持しています。衣料品や家電の他、排出量が少ない自動車等が好調であったと商務部では伝えられています。
また、地域別に見ると、四川省同15%、重慶市同13.2%、湖南省同12.5%増加しており、上海や北京の大都市でも宝飾品や化粧品等の女性向け商品の販売が好調で、それぞれ同10.3%、同9.3%の増加と堅調に推移しました。
筆者が駐在する上海市では、国慶節を挟む9月半ばから10月の上旬まで、上海観光祭と上海ショッピングフェスティバルが開催されます。今年は国内外から約1,100万人の観光客が上海を訪れ、初めて1,000万人を超えました。尚、国慶節期間中ではありませんが、イベント開催中の9/12~18日の一週間は、上海市全135ヶ所の観光地の内61ヶ所で入場料が半額となります。半額の対象には東方明珠塔、環球金融中心、金茂大厦、野生動物園等の人気スポットも含まれ、観光地は多くの人で賑わいました。更に今年の観光客は上記の人気スポットの訪問だけでなく、七宝古鎮(閔行区)、朱家角(青浦区)、崇明島(崇明県)等、観光地としてこれまで観測していなかった場所への訪問が大幅に増加したことが特徴的でした。
こうしたイベントの影響もあり、国慶節期間中の上海市小売売上高は前述の通り、前年比10.3%増の133億8,000万元(約2,542億2,000万円)となりました。地区別では、市中心部、郊外、浦東新区の順で売上高が高く、市全体で見ると嘉定区が一番の売上高となりました。
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上海アウトレット外観

また国慶節期間中、上海アウトレット(青浦区)が外国人に最も人気が高かった場所として、取り挙げられました。上海アウトレットでは全ての店舗が増値税の還付対象店舗(駐在員レポート2015年8月号ご参照)となっており、連休期間中、還付件数は169件、還付対象となった商品の売上高総額は94万3,500元(約1,793万円)にも達しました。
筆者も実際に国慶節に買い物で訪れましたが、アウトレット内の外観は日本と相違なく綺麗にブランドショップが立ち並んでいました。当日は非常に多くの人達で賑わっており、日本での「爆買い」に負けない活気を感じ取ることが出来ました。
  
○ おわりに
日本の百貨店ではクリスマス商戦・バレンタイン商戦といったイベント毎に特色を出していますが、最近では日本独自のイベントだけでなく春節や国慶節といった中国のイベントに合わせ、中国人観光客の囲い込みを図っています。今や中国観光客の消費力なくして日本経済の成長はないと言っても過言ではありません。
また今後益々、中国人観光客が日本経済に寄与することが予想される中、日本人はより一層中国の文化や慣習を学ばなければならないと感じます。例えば、購買において中国人はクレジットカードによる決済を好まず現金主義を基本としていることから、銀聯カードによる決済を日本の店舗が導入してきたように、常に中国人の求めるものを把握し対応しなければなりません。
中国もしくは中国人を理解する為にはやはり一度中国を訪れることをお勧め致します。日本を訪れる中国人と接するだけでなく、現地の中国人と交流することでより中国を理解することが出来るはずです。中国と日本、お互いへの理解を進めることが中国・日本経済それぞれが発展する一番の近道となるのではないでしょうか。
  
 
 
 
 
 
 
(1元=20円)
以上
上海駐在 小林邦寛
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