上海駐在レポート

第 55 回「上海の税還付政策」

第 55 回「上海の税還付政策」

日本では今年、外国人旅行者による「爆買い」がブームとなりましたが、その火付け役の一つとなったのが2014年10月より実施された免税制度の拡充です(日本では、2014年10月より食品類、飲料類、薬品類、化粧品類等の消耗品を含む全ての品目が免税対象となりました)。日本が2020年の東京オリンピック開催に向けインバウンド(海外旅行者を自国に誘致すること)施策を推進する一方で、筆者が駐在する上海でも外国人旅行者の誘致につなげ消費を活性化させようと、7月1日より外国人旅行者に増値税(付加価値税)の一部還付政策が導入されました。
今月のレポートでは、上海市の税還付政策の概要、免税の方法についてご紹介したいと思います。
 
○ 上海市旅行者数推移
2.jpg
上海市を訪れる外国人旅行者数は、2010年をピークに年々減少傾向にあります。要因には大気汚染や食品安全の問題、更に外国人旅行者の中で一番割合の多い日本人に対する日中関係の悪化等が挙げられています。しかし、2014年に訪れた外国人旅行者数は前年比4.5%増の791万人に達し、2013年の5.4%減からプラスに戻しました。さらに2016年春には「上海ディズニーランド」が開業する見通しであることから、ここで外国人旅行者の誘致を進めるべく、上海市政府は税還付政策を実施しました。
 
○ 税還付政策の概要
上海市は2015年7月1日より、外国人旅行者を対象に増値税の一部還付制度を導入しました。減速傾向の景気を下支えする為、低迷している消費を喚起することが狙いで北京市でも同様の政策が実施されています。税還付率は11%と発表されていますが、還付手続きを行う代理機関が約2%の手数料を徴収する為、実際に還付されるのは約9%となります。
還付を受けられる対象者は、中国国内での連続滞在日数が183日以下かつ認定された店舗で買い物をした外国人(台湾、香港、マカオ出身者を含む)となります。また、税還付対象の商品を購入した日から中国滞在日数が90日を越えないことも条件となります。尚、原則、外国人旅行者が対象となっていますが、上記条件を満たし、頻繁に帰国する中国駐在の外国人も対象になります。
3.jpg
≪「退税商店」というプレートが置いてある店舗が認定店舗の目印となります≫
認定された店舗は、上海市最大の繁華街である南京東路の百貨店等を中心として27店舗あり、日系の高島屋や大丸も対象店舗となっています。対象商品も日用品から宝飾品、眼鏡、時計、医薬品、陶磁器等様々です(残念ながら、おみやげ等で購入する食品は対象外です)。また、最低消費金額の条件もあり、一日に同一店舗で購入した金額が500元(約10,000円)に達している必要があります。尚、法律に定められている「輸出入禁止・制限リスト」に掲載された商品は対象外となります。
 
○ 税還付手続き方法
上記条件に合致する対象者が一日に500元以上の買い物を行った場合には、認定店舗でパスポートを提示し、「境外旅客購物離境退税申請書」という税還付申込書及び増値税領収書を受け取ります。その後、外国人旅行者はパスポート、税還付申請書、増値税領収書、購入した商品の現物を持って、出国の際に税関(浦東空港及び虹橋空港)で検査を受け、税還付サービスを行う代理機関(両替所等)に対し税金の還付を申請します。通関を通過後の代理機関での申請では購入した商品の現物を見せる必要はありませんが、税関での検査時には商品現物が未使用であるかを検査官が確認しますので、チェックインカウンターで(購入した商品含めた)荷物を預ける際には事前に税関で検査を受ける必要がありますのでご留意下さい。
尚、還付方法には、現金と銀行振り込みのいずれかを選択することが可能ですが、還付額が1万元(約200,000円)を超える場合、銀行振り込みのみの扱いとなります。
4.jpg 5.jpg

≪空港内にある税関受付所≫

(チェックインカウンター付近にあります)

≪空港内に設置されている代理機関≫

(虹橋空港内では、両替所が還付の代理サービスを行っています)

 
  
○ 上海市唯一の免税店
6.jpg

≪上海市唯一の免税店

上海中服出国人員服務中心」

上海には「上海中服出国人員服務中心」という免税店が市内に一店舗あります(住所は江寧路293号)。このお店は外国人旅行者は利用できず、海外旅行から帰国した中国人向けに展開している免税店となります(居留証を携帯する外国人でも利用不可)。今年で30年を迎える当店舗は100を超える海外メーカーの輸入商品約8,000点を市場価格の75%ほどで販売しています。中国人は帰国後180日以内であれば、当該免税店を利用可能であり、旅行先で買い物をしてわざわざ荷物を持ち歩く必要がないことがメリットとなります。
しかし、近年では中国人の海外旅行者は激増し、消費意欲が旺盛であるものの、当店舗は空港や旅行先に比べ取扱商品の点数、価格面とも優位性がない為、訪れる客も日に日に少なくなっているようです。
静安区の政府関係者によれば年内に店舗を移転し、販売面積を現在の6倍の約3,000㎡に拡大。取扱商品も増やすほか、政府協力のもと、価格面でも空港等と比べて見劣りしないものにする見通しとのことです。リニューアル後の品揃えと価格によっては、人気に火がつき、海外旅行で「爆買い」、帰国後も「爆買い」となるのかもしれません。
  
○ 終わりに
外国人旅行者向けの増値税還付政策の実施は、回復傾向にある外国人旅行者の増加を促す一方、電子商取引(EC)の拡大により苦戦している百貨店等の振興を支援する狙いもあります。実際に認定店舗でインタビューをしたところ、運用が実施されて1ヶ月が過ぎたばかりですが、日本人や韓国人等多くの旅行者が既に還付手続きを受けているようです。
しかし、日本では免税取扱店で消費税を除いた価格で買い物が出来る制度となっていますが、今回ご紹介した上海での税還付政策は、購入する店舗では一旦増値税込みの価格で買い物をし、出国時に税還付を受ける仕組みとなっています。
このような手続きは日本よりも煩雑である為、今回始まった上海での税還付政策を定着させるには、手続き上で更なる改善が必要であると思われます。
 
 
 
 
 
(1元=20円)
以上
上海駐在 小林邦寛
お問い合わせは tomin_shanghai@tomin-bc.com.cn まで 
 
 
 

 

 

 

 
 

 

绮罗商务咨询(上海)有限公司 XFCSS .ALL Rights Reserved 沪ICP备18032119号-1
Copyright Kiraboshi Business Consulting Shanghai Co.,Ltd ALL Rights Reserved

沪公网安备 31010102005043号