上海駐在レポート

第 54 回「中国のネットデリバリー事情」

第 54 回「中国のネットデリバリー事情」

上海では、日本同様6月から7月にかけて梅雨の時期となります。レポートを執筆している今も台風が上陸し大雨ですが、雨の日が長く続くと外出をするのも面倒だと感じる人も少なくないのではないでしょうか。そんな時に利用できるのがネットデリバリーサービスです。昨今の電子商取引(EC)の普及により、中国ネットデリバリー市場はこの一年で急激に成長しました。
また、デリバリーには食事配達の他、生鮮食品の配達や自宅にシェフをデリバリーし料理を作ってもらうサービスがある等、自宅にいながら様々なサービスが受けられます。
今月は急拡大する中国のネットデリバリー事情について、ご紹介したいと思います。
 
○ 急拡大するネットデリバリー市場
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≪ネットデリバリー市場 2014年度四半期別規模推移≫
ネットデリバリー市場が中国国内で急拡大したのは2014年に入ってからと言われています。これまでもネットデリバリーサービスは飲食店企業ごとに行っていましたが、所謂プラットホーム型のサービス(一つのサイトで多くの飲食店企業のネットデリバリーを利用できるサービス)は2013年11月頃から本格的に始まりました。某調査会社のレポートによると、2014年のネットデリバリーの四半期別売上高は、1~3月期が約21億元(利用件数39.9百万件)であったのに対し、10~12月期は約3倍の60億元(利用件数190百万件)に達しており、直近1年で急激に成長していることが分かります。
ネットデリバリー市場が拡大している背景には、新しいサービスに敏感な1980~90年代生まれの若者が主要顧客層になっていることが関係しています。
中国の食事デリバリーサイトには「餓了末」「美団外売」「百度外売」等ありますが、特に「餓了末」は2009年に業界で一早くサービスを開始し、現時点で約20万社の飲食企業と提携し、全国260都市でサービスを展開しています。1日当たりの受注件数は最大200万件ですが、注文はパソコンよりもスマートフォン等のモバイル端末からの利用が多く全体の約8割を占め、利用者の大半が20~30代の会社員や大学生等の若い世代となっています。
実店舗のみを持つ飲食企業や企業知名度の低い飲食店からすると、オンラインユーザーと実店舗を結ぶビジネスモデル「O2O(Online to OfflineもしくはOffline to Online)」を進めていく中で、上記のデリバリーサイトに出店することは、広告費をかけずに「O2O」ビジネスを推進する効果があります。
2014年の中国の飲食業全体に占めるネットデリバリーの売上は10%前後と、先進国の水準(平均30%)に比べると未だ大きく下回りますが、今後中国国内で「O2O」ビジネスを加速させていく上で、ネットデリバリー市場の拡大が非常に期待されています。
 
○ ネットデリバリーサイトの紹介
次に、実際にどのようなデリバリーサービスがあるか、下記にいくつかご紹介したいと思います。
  
① 食事のデリバリー
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≪「餓了末」が展開するスマホ向けアプリ≫
上記でも挙げましたが、食事のデリバリーサイトには「餓了末」「美団外売」「百度外売」等の飲食系企業と提携したプラットホーム型があります。
このようなサイトでは、消費者から注文を受けると、サイトの配達員が各飲食店に出向き食事を購入し、それを消費者の希望の場所に届ける仕組みとなっています。飲食店が独自でデリバリーサービスを行っていないことが特徴として挙げられます。
選択できる飲食店にはマクドナルド、ケンタッキー、吉野家、すきや、ピザハット等、日本でもお馴染みのファストフード店も並んでおり、中華以外にも様々な食事を選ぶことが出来ます。また、配達可能な金額はお店によって異なりますが、多くのお店は30元以上で注文が可能となっており、一品から気軽に注文することが出来ます。尚、配達料は5~7元が一般的に多いようです。
  
② 生鮮食品のデリバリー
食事ではなく食材のデリバリーサービスとなりますが、中国インターネット通販サイト大手の「天猫商城」や「京東商城」では、北京・上海等の全国主要都市にコールドチェーン物流(冷蔵・冷凍を保つ物流方式)配送センターを設置し、生鮮食品のデリバリーを実現しています。これまでは、果物や野菜の常温物流は当たり前でしたが、輸入食品を含めたインターネットショッピングが広まったことや消費者の食の安全意識が高まったことから、ここ数年で中国のコールドチェーン物流産業は急速に成長しています。
大都市の消費者には自家用車を購入することが困難で、持っていたとしても交通渋滞に苦しんでおり(2015年5、6月号参照)、毎週休日の食材調達に苦労しているという背景がありますが、コールドチェーン物流の発展により、消費者は自宅にいながらインターネットによる注文後24時間以内に生鮮食品が届くようになりました。
  
③ シェフのデリバリー
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≪実際に自宅にシェフを呼んでみました≫
デリバリーサイトには食事を注文するのではなく、シェフを自宅に呼んで調理をしてもらうサービスもあります。代表的なものに「好厨師」というサイトがありますのでご紹介致します。
このサイトは本場の中華料理を自宅で調理してくれるサービスで、料理も四川料理、湖南料理、広東料理、東北料理等から選ぶことが出来ます。サービス料は料理の数によって79~169元と設定されています。また、調理する食材は自分で用意するか、シェフに買って来てもらうか選択することが出来ますが、シェフに頼むと少し割高となっています。因みにシェフは30人程度待機しており、サービスを受けたい時間の最低4時間前に申し込みをすれば自宅に呼ぶことが出来ます。
筆者も試しに同サイトを利用して自宅で湖南料理を調理してもらいましたが、5品の料理を一時間程度で手際よく調理し、調理後はキッチンを綺麗に片づけてくれました。肝心の料理の味もレストランで食べる料理と相違なく非常に満足できましたので、自宅でホームパーティーを行う際などご利用してみては如何でしょうか?
 
○ 終わりに
インターネットサービス大手の騰訊(テンセント)が実施した生活に関するアンケートによると、調査対象の約8割が多忙なこと等を理由に料理を含む家事に消極的と回答し、このうちの7割以上が利便性の高さからネットを使った生鮮食品の購入や食事デリバリーの利用に関心を持っていると回答しました。一方で、デリバリーに対する消費者の関心は食品に対する安全性(52.5%)が最も高く、配達時間(19.5%)、味(18.3%)を大きく上回った結果となりました。
生鮮食品のデリバリーについてはコールドチェーン物流の発達があるものの、デリバリー各社は(調理をするシェフの衛生面も含め)食材や食事のデリバリー全般において安全性を確保するための物流やサービスの向上が常に求められてきます。
今後もネットデリバリー市場が利便性と安全性の両面を兼ね揃えた上で、発展していくことを期待したいと思います。
 
 
 
 
 
(1元=20円)
以上
上海駐在 小林邦寛
お問い合わせは tomin_shanghai@tomin-bc.com.cn まで 
 
 
 

 

 

 

 
 

 

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