上海駐在レポート

第 40 回「中国の出産・育児事情」
第 40 回「中国の出産・育児事情」
中国では年間約1,640万人の新生児が誕生しています。少子化が進む日本では年間103万人(2013年厚生労働省発表)であり、中国の出生数の多さが窺えます。また、中国人は「孩奴(子供の奴隷)」と言われるように出産、育児に多くのお金を掛けると言われています。先の第三回中国共産党中央委員会全体会議(三中全会)においては一人っ子政策の緩和が決定され、出産、育児関連市場の期待はますます高まっています。
今月は、最近の中国の出産・育児事情についてレポート致します。
 
◎ 中国と日本の子供の割合
     
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右の図は2013年の年齢別人口構成比を中国と日本で比較したものです。一人っ子政策により少子化が進んでいるイメージのある中国ですが、総人口に占める0~15歳の子供の割合は日本よりも高いことが分かります。
また、出生率(人口千人あたりの出生数)も12.1%(日本は8.2%)と安定しており、この点を見ても中国での出産、育児関連市場は日系企業にとって魅力的な市場であると言えます。
 
◎ 高まる産後ケアニーズ
中国では出産後の特徴の一つとして、「座月子(ズオユエズ)」という期間があります。出産後の女性は身体が弱っていることから、赤ちゃんを育てることよりも自分の身体を休めることに重点を置くという意味があります。
この期間、中国では古代からの風習として、出産した女性の健康維持の為、入浴や洗髪が禁じられ、外気に体をさらさないようにしていたと言われています。現代では上下水道も完備され清潔な水道水が得られるため状況に応じて入浴や洗髪も許可されることがあるものの、地域によっては「座月子」の風習は未だ中国大陸に残っています。その他にも、伝統的な「座月子」では、歯を磨かない、階段を登らない等といった制限が求められ、また、現代的な制限には、テレビを見ない、本を読まないといったことが求められるケースがあると言われています。
では、この間、誰が赤ちゃんの面倒を見るのでしょうか。そこで登場するのが、「月嫂(ユエサオ)」と「月子中心(ユエズセンター)」という、子供に多くのお金をかける中国ならではのサービスです。
 
① 月嫂
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   <上海市内にある月子中心>
月嫂とは、座月子の間、産婦と新生児の世話をする専門の家政婦を言います。赤ちゃんへの世話はもちろん、産婦へのケアも万全で栄養バランスを考えた食事も作ってくれる24時間のベビーシッターです。
その費用は一般的には一ヶ月4,000~8,000元(約66,000~132,000円)と言われ、一流の月嫂となると一ヶ月10,000元(約165,000円)以上掛かると言われています。
② 月子中心
月嫂を雇う以外の方法としてホテル式の産後ケアセンター「月子中心」を利用する人も多くいます。一日三回の食事からベビースパ、産婦ダイエットマッサージ、心理カウンセリングなど、ホテルの様な施設で全てをケアしてもらえます。こちらも月嫂同様、金額は様々で、一ヶ月40,000元(約660,000円)の施設もあれば、一ヶ月400,000元(約6,600,000円)掛かる施設もあると言われます。
 
中国では、給料が3,000元(約49,500円)程度の人でも「一生に一度のこと」と、上記サービスを利用する人が非常に多く、最近では社会的にも注目されています。現代の若い親たちは、金払いが良く、品質にもこだわり、子供に最高のものを与えたいと考えるようです。
また、最近の中国では、社会・経済の発展に伴い、人々の出産や育児に対する考え方にも変化が現れ、これまでの「早く結婚し早く子供を産む」という伝統的な考え方から「遅く結婚し遅く出産する」といった晩婚化が進み、高齢出産が一般的な現象となってきています。なお、高齢出産する女性たちは体力の低下や体調不良になりやすく、必然的に同サービスを利用する傾向が高まっていると言われています。
 
◎ 一人っ子政策の緩和
一人っ子政策は元々人口増加の抑制を目的として1979年に始まった政策で、正式には「人口計画生育政策」と言われています。毛沢東時代に出産を奨励し、人口の急増とともに貧困層が急増したことを受け、人口の増加を経済の発展と調和させる為、一人っ子政策は実施されました。
しかし、近年では結果として人口構成がゆがみ、1982年時点では4.9%であった65歳以上の人口の割合は、2013年に9.7%にまで上昇し、同時に生産年齢人口(16~64歳)は2012年に初めて減少に転じました。こういった労働力不足と高齢化に伴う問題が深刻化しつつある中、一人っ子政策を見直す機運は高まっていきました。それに向けた第一歩として、2013年11月の三中全会において、「夫婦のどちらかが一人っ子の場合、子供を二人産むことができる」とした緩和策が発表されました。
ただし、これまでにも一人っ子政策には各種の例外規定があり、一部の自治体では「一・五人っ子政策(一人目の子供が女児である場合、二人目を産むことができる)」や複数の子供を持つ事が出来る「二人っ子政策」、「三人っ子政策」が設けられていました。厳密に「一人っ子政策」を実施しているのは、都市住民の大多数と北京市、天津市、上海市、重慶市、江蘇省、四川省の農村住民であり、中国総人口の38%と言われています。その為、今回の緩和による効果は限定的とも言われていますが、購買意欲の高い都市住民に二人目の子供を産むチャンスが増えることから、出産、育児関連市場の期待はやはり高まっている状況です。
また中国では1980年代に生まれた世代は「80後(バーリンホウ)」と呼ばれています。その世代の子供は一人っ子政策施行後の第一世代として、両親や祖父母からの愛情を一身に受け育った世代であり、他の世代よりも学歴が高く、収入もあり、消費能力の高い世代と言われています。今その「80後」が親世代となり出産、育児期のピークを迎えていることからも一人っ子政策緩和による相乗効果はますます期待されています。
 
◎ 終わりに
前段でも述べたとおり、「80後」世代の結婚適齢期到来により、中国では新たなベビーブームが起こると言われています。日本では少子化により縮小傾向にある出産、育児関連市場ですが、中国では規模の大きい、成長率の極めて高い市場と言えます。これまでも日本の出産、育児関連商品は安全・安心な品質により中国国内においてシェアを高めてきましたが、日系企業にとっては更なるビジネスチャンスの拡大が期待されます。消費大国である中国において、引き続き注目すべき分野の一つといえるでしょう。
 
 
 
 
(1元≒16.5円)
以上
上海駐在 小林邦寛
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