上海駐在レポート

第 39 回「帰任に際して」
第 39 回「帰任に際して」
2009年10月に着任して以降4年半が過ぎ、この度日本へ帰任する事となりました。今回は2回目の駐在(前回は2001年~2004年)という事もあり、カルチャーショックをうけるという場面は必ずしも多くはありませんでしたが、やはり変化が激しいのが中国、以前あったものがなくなって新しいものが出来ていることは日常茶飯事でした。また、上海は2010年に万博があったことから、その変化の激しさに一層拍車がかかったように感じました。
 
変化があったのは街の風景だけではなく、当地の方々の服装、行動にも大きな変化があったように感じます。前回の駐在時代には、ネマキのままで街に繰り出している人(私は彼らを「パジャマ族」と密かによんでいました!)、シャツをおなかの部分だけたくしあげた半裸の人たち(半裸族!)が多く見かけられました。それが、いまはファストファッションの急速な浸透に伴い、ユニクロやZARAといったカジュアル衣装の人たちがほとんどで、パジャマ族や半裸族にはなかなか遭遇出来ません(残念な気持ちもありますが(笑))。また、地下鉄の乗車に際しての我先にといった行動はほぼなくなり、「整列乗車」が浸透してきています。更に、携帯電話も一世を風靡したNOKIAの昔ながらの携帯は姿を消し、ほとんどの人たちがスマホを操っています。そして、SNS等で友人や家族とコミュニケーションする以外にも、レストラン予約やタクシー配車までもスマホで行っています。4G通信回線のサービスもスタートし、当地の通信環境は益々向上しています。
 
さて、ビジネス面に目を転じますと、2008年末のリーマンショック以降、その生き残りのエンジンを中国に求めた日系企業が多かったのではないかと思います。当地でコンサル業をしていた実感として、2010年、2011年、そして2012年前半は非常に多くのご相談を頂戴し、現地法人の設立のサポートを何件もご用命頂きました。といいましても、その進出目的は従来の「物づくり」から「中国国内販売」に大きく舵を切っており、前回駐在時のような、毎日工業団地へ足を運んで政府関係者と交渉&乾杯(笑)といった状況にはありませんでした。むしろ、いかに効率的にコンパクトに拠点を構えられるかといった所にお客様の重点は置かれていたように感じます。また、中国国内販売を目指すアイテムも、従来のようなB to B工業製品というよりは、B to Cアイテム・サービスに変化したように感じています。
 
そうした消費者向けの製品の中国国内販売において、日系企業が陥りがちなミスが1つあると私は感じています。それは、「技術過信」です。「イイものは必ず売れるはずだ!」と鼻息荒く中国へ製品を持ち込んでみたものの、現地に受け入れられずにあえなく撤退という場面を多く見かけました。高品質である点は当地の方も異論はないはずですが、「高すぎる」、「不要な機能が多すぎる」、「ライフスタイルに合わない」といった要因から、コストパフォーマンス(当地では「性価比」といいます)が低くなってしまっているのです。改めて、「郷に入っては郷に従え」の言葉通り、真摯に現地のニーズを探り、当地の方にとって最も「性価比」が高い製品を投入する必要があると考えます。近時、「ジェネリック家電」というのが日本で流行しているようですが、その「価格は安く中身は一流品と同等」といった考え方などは、当地のニーズに合っているような気がします。一方で、もしブランド価値が生み出せる程に「イイもの」であれば、それは製品価値だけで「性価比」は判断されません。よって、当地で販売をするうえではマーケティングをしっかり行う事が大切だと感じております。中国という巨大な相手(小錦関のような(笑))と戦うためには、様々な技を繰り出す必要があります(舞の海関のように(笑))。もし貴社が中小企業様である場合には、限られた資源をいかに有効に活用するかを考える必要があります。よって、マスを攻めようとせず(小錦とガップリ四つは厳しいですよね(笑))、様々な技を駆使してニッチを攻める戦略を是非検討して頂きたいと私は思っております。
 
さて、話題は変わりますが、今回は現地法人の運営責任者を任された事もあり、様々な現地法人経営者の方々と交流する機会に恵まれました。そうした交流の中で話題の中心となるのが、「本社といかにうまくつきあうか」でした。そして、ここがなかなかうまくいかない企業様が多く、それが業績に反映してしまっているといった場面にも遭遇致しました。本社と現場の意思疎通不足という言葉で片付けられてしまう事が多いのですが、ただコミュニケーションしているだけではこの壁は乗り越えられないと私は感じています。ある経営者の方が教えて下さったのですが、本社と現場が以下の点を双方で考えて意思疎通すれば解決できる事は多いそうです。「①変えられるものを変える勇気を持つ ②変えられないものを受け入れる寛容さを持つ ③変えられるものと変えられないものを見分ける知恵を持つ」。中国ビジネスを続けていれば、様々な場面において日中双方で判断しなければならない事が生じます。そんな時に、上記①~③を意識し、特に③を本社と現場とで常にコミュニケーションして会社のノウハウとして蓄積していくことが中国ビジネス成功のポイントの1つではないかと感じています。
 
2012年9月以降、日中の政治関係が悪化しその状況が今も続いています。懸案事項が飛躍的に解決に向かうことが想像しにくい状況下、経済面に目を転じますと貿易統計が落ち込むなど影響が出ています。一方で、日本を訪れる中国の観光客数は、円安等の背景もあり関係悪化以前の状態に回復してきているように感じます。東京オリンピック招致でアピールした日本の洗練されたサービス・ホスピタリティーが当地の観光客にも受け入れられているのだと想像します。では、中国を訪れる日本人観光客の状況はどうかといいますと、過日面談をした日系ホテルマネージャーの話によれば、万博開催時期の1/4以下、関係悪化以前の1/3以下だそうです。この全く反対の現象が起きている原因はどこにあるのでしょうか。その1つの解はメディア報道を受信した国民の感じ方にあると私は考えています。同じニュースに遭遇しても、それをどの程度信用して自身の行動に反映させるか否かということです。私が当地にいて感じるレベルとして、多くの日本人は、メディアで報道された内容の90%以上を信用するのではないかと思います。一方で、中国人の場合には50%程度ではないかと私は感じています。そして、残りの50%の情報不足をどこで補っているかというと、いわゆる「くちこみ」ではないかと私は考えています。そしてこの「くちこみ」は商品購買といった消費行動にも大きく影響していると私は考えています。大衆点評ネット等の商品やサービスにかんするくちこみサイトが多数存在し、複数のサイトをサーフィンしてから購入の意思決定をするという事も多いようです。そして何より信用出来る「くちこみ」情報といえばやはり知人・友人ということでしょう。中国の方々にサービス或いは商品を買ってもらうためには、知人・友人のくちこみをいかに活用できるかがポイントだと思います。そして、そこを踏まえたマーケティングが出来れば、成功に一歩近づくような気がします。
 
最後に、今回の駐在を終えて感じたことは、自分自身の目で見て確認する事がやはり大切だという事、そして見ているだけではなくやってみることで見えてくる世界が変わるという事です。中国に限らず外国でのビジネスというのは不確定な要素が多いものです。その不確定な要素をいかに少なくできるかが成功するか否かの分岐点となる気がします。不確定要素を減らすには、まずは自身が見てみなければNGです。「百聞は一見に如かず」ということわざがありますが、まさにその通りだと思います。まずは自身の目で見てみましょう。そして、100回見ていても見える世界は変わりません。今度は自身でやってみましょう。これまたある経営者の方の言葉ですが、「百見は一行に如かず」だそうです。そうすれば、何が良かったのかダメだったのかよく理解でき、そこからまた新たな事業発展が見込めるのだそうです。全く同感であります。身近な例でいえば展示会などがまさにこのパターンではないでしょうか?まずは見に行く、ある程度見たら今度は出展してみる、これだと思います。もちろんやってみることにリスクは伴います。リスクという言葉の語源は、イタリア語で「勇気をもって試みる」だと言われています。リスクはその所在と軽重が判断できれば決して「取ってはいけないものではない」と私は考えます。皆様も是非中国ビジネスという大いなる果実を享受出来ますようお祈り致します。また、弊社がその為のお役に立つ事が出来ますればこの上ない幸せに存じます。ありがとうございました。再見!

 

以上
都民銀商務諮詢(上海)有限公司
近藤 健太郎

お問い合わせは tomin_shanghai@tomin-bc.com.cn まで
 

绮罗商务咨询(上海)有限公司 XFCSS .ALL Rights Reserved 沪ICP备18032119号-1
Copyright Kiraboshi Business Consulting Shanghai Co.,Ltd ALL Rights Reserved

沪公网安备 31010102005043号