上海駐在レポート

第 39 回「上海のタクシー事情」
第 39 回「上海のタクシー事情」
タクシーは中国国内、とりわけ北京市や上海市等の大都市圏では交通手段の一つとして、身近な存在となっています。日本と比べ運賃が格安ということもあり、小職も帰りが遅くなった時など気軽に利用しています。最近では、タクシーを現在地まで呼ぶことのできるスマートフォン配車アプリの登場や、そのアプリを活用した中国IT企業のネット戦略等により、タクシー業界は集客や効率化を図るべく試行錯誤を続けています。
今月は、上海市におけるタクシー業界の概要・制度に加え、最近の事情や戦略についてレポート致します。
 
1. 上海タクシーの概要
まずは上海市のタクシーの特徴についてご紹介致します。
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<上海四大タクシー>
一つ目に、上海市では事業者の大部分が独フォルクスワーゲン車を使用しており、事業者によって車輌のボディカラーが異なる点が挙げられます。現在上海市にはタクシー事業者が約140社あり、そのうち自社カラーを保有するのは大衆タクシー(水色)、強生タクシー(黄色、緑色)、錦江タクシー(白色)、海博タクシー(明るい青色)で、この大手4社が上海のタクシー事業を牽引しています。保有車輌が1,000台を超える事業者は、自社カラーを設定することが可能となっています。
また、保有車輌数が200~999台の事業者は上海市交通局が定める藍色連盟というタクシーグループに加入することが義務付けられており、現在約20社が加入しています。加入会社は同じカラー(紺色)の車輌を使用し、社名灯の前面には藍色と表示していますが、背面にはそれぞれの社名があり、事業者ごとに営業活動を行っています。藍色連盟はあくまでもタクシー会社の規模を区別するために設けられたもので、同じグループ会社という概念はありません。
さらに、保有車輛が200台未満の事業者のカラーは全て赤で統一されています。以前は個人タクシーも存在し、ぼったくりや遠回り等の悪質なタクシーが横行していましたが、現在では個人レベルの事業者は上記大手4社に管理されるようになりました。接客マナーやサービス・衛生面の管理を大手タクシー会社が行うことで、タクシー業界は徐々に改善が進んでいます。
 
2. 星制度について
本二つ目の特徴として、星制度が挙げられます。これは上海市独自の制度で、運転手のマナーや運転技術を審査する試験が年に一度行われており、一つ星(最低)から五つ星(最高)の5段階で評価されます。高い評価を得るには、勤続年数や一定期間無事故無違反などが条件となるため、星の数が多ければ多いほど利用者の安心感に繋がっています。三つ星以上の場合は社名灯が赤くなって見分けがつくようになっており、星の数は助手席にある運転手のネームプレート付近に表示されています。
小職も赴任してからの半年間で一度だけ5つ星ドライバーのタクシーに乗車したことがありますが、こちらの拙い中国語にもゆっくり丁寧に答えてくれたり、また日本語で返事をしてくれたりと、10分ほどの短い時間でしたが接客マナーの高さに非常に感心させられました。
このように、上海市ではタクシー業界全体のサービス向上に工夫して取り組んでいることが分かります。
 
3. 格安運賃とタクシー不足
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上海市では東京と大差がないほど地下鉄や高架鉄道、バス等の交通網が整備されていますが、冒頭述べたとおり、運賃が格安であるため、移動の手段としてタクシーは依然として多く利用されています。現在の上海市での初乗り料金は14元(≒231円)で日本と比較しても低料金に設定されており、50元(≒825円)あれば、市内のどこへでも行くことが出来ます。
しかし低料金ゆえに利用者が多く、弊害も起こっています。それは上海市の人口が約2,400万人と東京の約2倍であるにもかかわらず、タクシーの台数はほぼ同じ約5万台程度しかないため、タクシーの供給が追い付いていない点です。
雨の日等、必要な時につかまえられないこともしばしばあります。また、特に春節の時期には運転手の多くは帰省してしまうため、タクシーを見つけるのが困難で非常に苦労します。
 
4. 新たな取組み
(1) 配車アプリの概要
常に、利用者側には効率よくタクシーを拾いたいというニーズと、運転手側には長距離の客を選びたい、高い運賃を稼ぎたいというニーズがあります。そういった利用者と運転手双方のニーズを満たすため、最近ではスマートフォンのタクシー配車アプリが大ヒットとなっています。仕組みとしては、利用者が現在地と目的地の情報を周囲のタクシーに発信して、運転手にピックアップを促す方式となっています。また、中国アプリの特徴として「チップ」を設定できるところがあります。これにより利用者にとっては運賃以外のチップの支払いを約束することでタクシーを拾う可能性をより高くすることができ、運転手にとっては効率よく高い運賃を得られることとなるため、双方にメリットがあります。
 
(2) IT企業の戦略
上海の配車アプリでは、国内大手IT企業のアリババが出資する「快的打車」とテンセントが出資する「ディディ打車」が二大勢力としてシェアを分け合っています。両社とも、タクシー運賃の支払いについて自社のモバイル決済サービスを利用してもらい、決済口座の新規作成や銀行口座と決済口座を紐づけしてより多くのお金を決済口座の電子マネーに換金してもらおうと知恵を絞っています。今年に入り、両社はアプリ利用をさらに促すために、タクシー利用者と運転手に利用毎に1回10元の補助金を贈るサービスを展開し、利用者を大幅増加させることに成功しました(4/20現在は1回当たりの利用で3元が支給)。実際に、アリババのモバイル決済サービスである「支付宝(アリペイ)」の3月以降の1日当たり利用件数が約2,500万件と、2013年12月より2倍余り拡大したと報道されています。増加した主な要因に、この補助金サービスを活用した配車アプリ業者間の競争激化が追い風になったといわれています(3/20付き新華網通信による)。
 
(3) アプリの問題に対する上海市の対策
アプリによりタクシー利用が便利になる一方、利用者の急激な増加により問題も発生しています。一つは、アプリ機能を上手く使いこなせないお年寄りのタクシー利用が困難になったことです。二つ目に、運転手が利用客を乗せている間も、新しい利用客の情報が絶え間なく携帯電話に届くため注意が散漫になり、安全上問題が出ていることです。
こうした問題を受け、上海市はラッシュ時(午前7時~9時半、午後4時半~6時半)のアプリ使用禁止とする規制策を発表しました。その他にも利用客を乗せている場合のスマートフォンの使用禁止、さらに乗車拒否の禁止等も含んでおり、違反した場合の処罰についても明確化されています。また、上海市では「社会的な責任を顧みなければ、アプリの利用を暫定停止する」と強硬措置も視野に入れ管理体制を強める意向が見受けられます。しかし、国内大手IT企業であるアリババやテンセントの企業戦略もあることから、その実現性は不確かなものといえます。
 
5. 終わりに
昔ながらの伝統産業であるタクシー業界も近年では携帯電話やパソコン等の普及により、ビジネスモデルが大きく変貌したように感じられます。こうした最新の情報通信技術と伝統産業との結び付きによる新しい市場の開発は、他の産業等に波及すると考えられることからも、引き続き注目していきたいと思います。
 
 
 
 
 
(1元≒16.5円)
以上
上海駐在 小林邦寛
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