上海駐在レポート

第 38 回「労務派遣暫定規定」施行に伴う現地企業の対応について
第 38 回「労務派遣暫定規定」施行に伴う現地企業の対応について
中国において労務派遣が初めて実施されたのは改革開放初期の1970年代末ですが、法令に関しては長期にわたり整備がなされてきませんでした。その後、労務派遣に関する法令について、2008年の「労働契約法」において初めて制定されたのを皮切りに、「労働契約実施条例」、「改正労働契約法」と施行され、法令は拡充、整備されてきました。そして今般、労務派遣を巡るこれまでの経緯を踏まえ、「労務派遣暫定規定」(以下、「本規定」とする)が、「改正労働契約法」を補足する形で制定されました。
今回のレポートでは、本規定の概要及び施行に伴う現地企業の対応について報告致します。
 
◎ 労務派遣に関わる法令の推移
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     前段でも述べたように、労務派遣に関して初めて規定が制定されたのは2008年の労働契約法においてでした。しかし、労働契約法では人材派遣会社の設立要件が緩和された一方で、派遣労働者にとっては不安定な就労期間、低賃金など厳しい状況に置かれる等、その内容は不十分なものとなっていました。そこで、このような状況を改善すべく、2010年に立法行政関係者が労働契約法のうち労務派遣に関する部分の改正に着手し、2013年7月に「改正労働契約法」が施行となりました。
改正労働契約法では、人材派遣会社の設立要件が厳格化されたほか、派遣労働者の概念(後段「①雇用範囲」参照)・内容が明確化されました。さらに、「労務派遣はあくまで労働市場の補足的機能であること」、「派遣労働者の使用には一定比率の限度を設ける」などの内容も定められ、今後、過剰な労務派遣を制限するといった立法・行政関係者の基本姿勢が示されたものとなりました。
そして、今般制定された本規定は、改正労働契約法の内容を補足し、労働行政部門による本格的な監督、法執行に明確な法的根拠を与えた形となっています。
このようにして、2008年の労働契約法施行後の一連の法整備により、労務派遣を巡る法体系は構築されましたが、その実効性については今後着目していかなければなりません。
 
◎ 本規定施行のポイント
①雇用範囲
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本規定において、「企業は、臨時的、補助的もしくは代替的な業務職位でのみ派遣労働者を使用することができる」とされており、労務派遣はあくまで補助的な雇用形態と定義されています。なお、それぞれの職位の定義については図表2の通りとなっています。
 
②総量規制
本規定において、派遣先企業には、労務派遣従業員の比率を厳格に管理することが義務付けられ、「労務派遣従業員比率は、全従業員の10%を超えないものとする」と明確化されました。なお、全従業員数とは直接雇用従業員と間接雇用(労務派遣)従業員の和となります。
各企業は、今後、労務派遣従業員の比率が10%以下となるまで、新たに労務派遣従業員を雇用してはならないほか、2014年3月1日時点の労務派遣従業員比率が10%を超えている場合、調整案を所在地の人力資源社会保障行政部門に届出の上、2年以内に規定の10%まで比率を下げなければならないとされました。
 
③偽装請負対策
労務派遣労働者の比率が制限されると、実態は労務派遣でありながら、労務請負契約や業務外注契約の締結によりその規制を免れようとする動きが見られます。
本規定では実質的な労務派遣であるにも関わらず、請負、外注として労働者を利用した場合には、これを労務派遣とみなすことを明確に定めました。これにより、企業と労働者との関係が労務派遣に該当するか否かは、単に契約の形式や名称ではなく、実態を検討した上で判断されることになります。よって、BPOなどの業務委託への移行を検討している企業では慎重な対応が必要といえるでしょう。
 
④地区を越えた労務派遣
派遣元企業は、労務派遣従業員の勤務地にて、勤務地の規定に従い社会保険料を納付しなければならないとされています。なお、派遣元企業が勤務地に分公司を設立している場合、分公司により社会保険加入、納付手続を行い、勤務地に分公司がない場合は、派遣先企業が代わりに労務派遣従業員の社会保険加入、納付手続を行う形となります。
 
⑤違反した場合の責任義務
企業が改正労働契約法および本規定に違反し、労務派遣従業員を労務派遣機構に差戻した場合、労働行政部門より期限を設けて改正を命じられることとなります。期限を過ぎても改善されない場合、一人当たり5,000元(≒85,000円)以上10,000元(≒170,000円)以下の罰金に処されることに加えて、労務派遣従業員が損害を被った場合、派遣先企業は損害賠償責任を負わなければならないとされています。
 
◎ 現地企業の対応
本規定の制定により、現地企業にとって特に対応が必要となる点は、上記②の総量規制についてであると思われます。各企業は、直接雇用体制が求められる中、今後、必要に応じて、社会保険口座の開設、労働契約書の準備、就業規則の整備等が求められることとなります。実情では、間接雇用(派遣)であれ直接雇用であれ、日系企業ではある程度給与が保たれていることから、労務コストが増加するという問題よりも直接雇用体制による労務管理事務が増えることへの対応が必要となると考えられます。
また、日系の中小企業では人事担当者まで置いているケースは少ない為、FESCO等の総合人材サービス会社等に一部業務を委託することも想定されます。
ただし、人事コンサルティング会社等によると、施行後すぐに直接雇用に切り替える必要は無く、本規定にもあるように、2年間の猶予期間がありますので、その間の派遣契約が切れるタイミングで切り替えればよいとの見解もあります。一般的に、派遣契約は2年間の契約であることが多い為、猶予期間中に派遣労働者との契約は一巡できると想定され、その都度派遣元企業、労務派遣従業員と相談の上、対応していくことが望ましいとされています。
また、労務派遣従業員の中には、直接雇用ではなく、派遣労働者のままでいいと訴えるケースもあります(派遣先企業よりも派遣元企業の福利厚生が恵まれている場合等)。その場合、当該従業員を10%以内に含めることも出来ますが、該当する派遣社員が多い場合、解雇しなければならないことも想定され、ついては経済補償金(企業が従業員に労働契約の解除時に一括で支払う経済上の補助金。日本の退職金に相当)の負担についても問題となってきます。
さらに、今回派遣労働者の雇用範囲が明確に規定されましたが、企業活動における季節的要件等により臨時性、補助性、代替性の業務が突発的に発生することも考えられます。そのリスクを避ける為にも、現労務派遣従業員についてはすべて直接雇用にし、派遣労働者の枠に余裕を持たせる企業が出てくることも想定されます。
他にも、某調査会社によると、「中国では求職者全体の7割近くが、学歴や職歴の詐称等何らかの詐称を行っている」とのことです。仮に労務派遣従業員が問題を起こした場合、これまでは派遣元企業に問われていた責任が、今後は派遣先企業に転嫁することも想定されます。企業はこれまで以上に慎重に人材の見極めを行い、従業員の教育や管理等内部組織の強化が必要となってくることと思われます。
いずれにせよ、各企業においては、派遣元企業、労務派遣従業員と相談し対応していく必要があるといえます。
 
◎ 終わりに
本規定の施行については上記の点等に留意し、対応する必要があると思われます。
また、地域により実施内容が異なる可能性などもあることから、日系企業の多くは前述の通り、当面は様子見であると言われています。特に上海市のように外資系企業の多い都市では、実施に対して寛容になる可能性もあり、今後の動向を見守る必要があるといえるでしょう。
 
 
 
 
(1元≒17円)
以上
上海駐在 小林邦寛
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