上海駐在レポート

第 36 回「上海国際マラソン」
第 36 回「上海国際マラソン」
12月1日、今年で18回目となる上海国際マラソンが開催されました。上海では毎年の伝統的なイベントとして定着しており、小職もフルマラソンに申込み、体験して参りました。参加した中で感じたことは、やはり昨今話題となっている大気汚染についてです。当日のスタート時間(午前7時)における有害物質「PM2.5」の濃度は1立方メートルあたり172.7マイクログラムと、日本の環境基準の約5倍にあたり、実際に走っていても空気は非常に悪く感じました。
今月のレポートでは、上海国際マラソンを通して、日本においても決して軽視できないPM2.5の問題について考えていきたいと思います。
 
◎ 上海国際マラソンの概要
 
5.jpg
<上海国際マラソン 風景>
     まずは、上海国際マラソンについてご紹介したいと思います。中国を代表する国際都市として、経済的にも著しい発展を遂げている上海を舞台に行われるこの国際マラソンは、年々規模を拡大し、今年は84もの国・地域から約35,000人ものランナーが参加しました。競技種類はフルマラソン、ハーフマラソン、10キロマラソン、健康マラソン(5キロ)から選択することが出来ます。コースは、上海市内の観光地を走る形式を取っており、最近の旅行会社のツアーでは、上海国際マラソンを旅程に組み込むツアーも企画しているとのことです
今年のコースは、上海の有名な風景を一望できる「外灘」をスタートとし、上海を代表する大繁華街の「南京東路」、ブランドショップやショッピングモールが隣接する「南京西路」、当行の現地法人も位置する「淮海中路」、浦西エリアの北から南を走る「西蔵南路」、上海市を東西に分裂する黄浦江に沿って走る「外馬路」、上海市最古の寺、龍華寺が位置する「龍華路」と続き、約80,000人を収容できる陸上競技場「上海体育場」をゴールとしています。
また、上海国際マラソンは日系企業の提案・協力の下、開催に至った経緯があり、1996年の開催以来、多くの日系企業が携わってきましたが、尖閣諸島をめぐる問題を受け、昨年は日系企業の協賛が外されました。今年は一部の日系企業の協賛が復活しましたが、未だ解決の見えない日中関係の問題は、来年以降の開催にも影響を及ぼすかもしれません。
 
◎ PM2.5問題
冒頭でも触れましたが、12月に入り、PM2.5の問題はますます深刻な状況が続いています。12/6には上海のPM2.5濃度測定値は1立方メートル当たり600マイクログラムを超え、過去最悪の水準に達し、「厳重汚染」レベルとなりました。日本の環境基準では「1日の平均値が1立方メートル当たり35マイクログラム以下であること」とされており、その約17倍の数値が計測されていることからも深刻さが覗えます。また、小職は赴任後間もないですが、ナショナルスタッフに聞いても「こんなにひどい状況は初めてだ」と皆、口を揃えて言っています。
中国では石炭を使った暖房も稼動し始めるため、これから冬場にかけて更なる悪化が懸念されています。
 
◎ 発生原因
① 急激な自動車の増加
中国国内での自動車の販売台数は年々増加し、2009年には世界の自動車販売市場において20%以上のシェアを占め、世界最大市場に躍進しました。
しかし、自動車の販売台数が増加する一方、使用されるガソリンの品質基準は、石油会社が儲けやすいよう緩いものとなっています。その為、北京や上海などの大都市では品質の悪いガソリンを入れた自動車が大量に走り回り、排気ガス、ディーゼル粒子などの物質が大量にまき散らされており、これも原因の一つであると考えられています。
 
② 石炭依存の経済構造
中国は世界の半分の石炭を使用する石炭消費大国で、年間消費量は約40億トンに達するといわれています。人口が世界の約20%弱の中国が、世界の半分もの石炭を使用することは明らかに異常ですが、これには理由があり、石油・天然ガスは国産で賄いきれず、輸入依存度が高まっているため、できるだけ国産燃料で値段も安い石炭を使いたいとの思惑があるからです。
石炭を燃やすと二酸化炭素に加え、硫黄酸化物、窒素酸化物など様々な汚染物質が排出されます。日本の石炭火力発電所はそうした汚染物質をほぼすべて除去したクリーンな排気しか出しませんが、中国では十分な環境設備を持たないまま石炭を燃やしており、汚染物質を大量に出しています。
 
◎ 中国国内の対応
飞信截图20131105154735.jpg
<PM2.5に覆われる上海市中心部のビル群>
これまで中国共産党の一党支配を支えてきた論理は「全てを犠牲にしてでも経済成長を優先する」といった成長至上主義でしたが、その論理も国民の健康問題につながる汚染の深刻化の前に見直しを迫られています。国民はより豊かになるよりも、健康で文化的な生活を求めてきているとのことです。
このような状況下、中国国内ではエネルギー消費に占める石炭の割合を減らし、原子力や天然ガスの利用を増やそうといった計画が発表されています。環境保全の為の規制や省エネ目標を掲げ、目標に達しない場合の罰則を設ける省も現れてきており、上海市では「大気浄化行動計画」を作成し、2017年までにPM2.5平均濃度を2012年比20%削減するとの策が打ち出されています。
これまで対策が遅れがちであった環境・健康問題に対して、どれだけ本気で対応することが出来るかが、今後の中国の発展に影響を与えていくものと思われます。
 
◎ 終わりに
中国のある記事では、「本来、マラソンは健康の為に参加するものだが、中国ではマラソンがかえって健康に害を及ぼす恐れがあり、大気汚染が深刻な中で国際マラソンが開かれることは上海にとって名誉なことだろうか」との疑問が提唱されていました。
前述の意見も納得はできますが、小職も実際に走って、今回のマラソンに関係する多くのスタッフやボランティア、沿道で応援して下さる方々を見ていると、政治とは無関係に世界中の人々が多く参加し、交流できるこの国際マラソンの存在意義は非常に大きいと感じました。日本だけでなく他の国とも関係悪化が懸念されている中国ですが、PM2.5や外交問題が早期に解決され、来年以降も無事に開催されることを願ってなりません
 
 
 
 
以上
上海駐在 小林邦寛
お問い合わせは tomin_shanghai@tomin-bc.com.cn まで

 

 

绮罗商务咨询(上海)有限公司 XFCSS .ALL Rights Reserved 沪ICP备18032119号-1
Copyright Kiraboshi Business Consulting Shanghai Co.,Ltd ALL Rights Reserved

沪公网安备 31010102005043号