上海駐在レポート

第 30 回「中国現地法人の移転」
第 30 回「中国現地法人の移転」
中国現地法人の業容拡大に伴う人員の増強や、経営効率の向上などを理由に、経営場所を移転するケースをよく見受けます。
企業の経営場所の移転については、法的にも認められており、手続きも明確にされていますが、区を跨ぐ移転や、生産型企業(製造業)の移転などにおいては、単純な住所変更の申請だけに留まらず、煩雑な手続きを要すこととなるため、注意が必要です。場合によっては、移転手続きを開始したものの、思うように手続きが進まず、1年以上経過しても移転が完了しないといった事例も実際に起きているため、移転を検討される際は、事前に手続き内容や注意点等を確認しておくことが望ましいといえるでしょう。
今回のレポートでは、「中国現地法人の移転」について、手続きフローや注意点などにスポットをあて、ご紹介したいと思います。
 
○ 移転手続きの概要
商業型(貿易型)企業における移転手続きの流れは、次項の通りであり、区を跨ぐケースと跨がないケースとで手続き内容は異なってきます。この手続きの違いは、主に中国の企業管理体系に起因するものであり、中国では企業設立時、工商登記の他に、税務局や税関、外貨管理局などの各種行政機関に登記を行うことが義務付けられています。移転によって、この登記機関の管轄地域が変更となる場合、元の所在地域で行っていた登記を一度抹消し、転入先で新たな登記を行う必要性が出てくるため、区を跨ぐ移転においては煩雑な手続きを要することとなる訳です。
区を跨がない移転であれば、手続き内容も比較的簡単であり、手続きに掛かる必要期間も短期間で済みますが、区を跨ぐ移転の場合、上記理由より手続きは煩雑となり、必要期間が長期に及ぶケースも多々見受けられます。とりわけ、このうち税務清算、税務登記の抹消については、注意が必要です。
中国の税金徴求システムは日本と異なります。日本の税金は中央政府が一括徴求し地方に配布するのに対し、中国の場合、まず地方政府が徴求し、自らの取り分を控除した後、残りを中央政府に上納する形となっています。よって、税金の管轄区分が異なる地域への移転は、当該地区において税収の減少へと繋がるため、税務登記抹消の際に、これまで納付すべき税金や、滞納金、罰金などの徴求漏れがないかを細かく検査されることとなり、この手続きに相当の時間が掛かるケースが散見されます。また、地方政府の税収目標の関係等より、「年度内の移転が認められない」といった事例も実際に発生しています。
この様に、区を跨ぐ移転においては、関連当局次第で掛かる期間が変わってくるため、必要期間が読めないといった問題点が挙げられます。なお、生産型企業における移転の場合は、これらの手続きの他に、環境影響評価や土地使用権に関わる問題等が絡んでくるため、商業型企業の移転よりも更に複雑となっています。
 
【商業型(貿易型)企業の移転手続きフロー】
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○ 移転における注意点
移転に伴う実務上の注意事項としては、何といっても前述の税務関連の手続きにあります。税収の減少を防ぐためにも何とかして移転を阻止したい転出地側と、逆に移転を歓迎する転入地側とのスタンスの違いより、移転の手続きが変則的となったり、会社は移転済みなるも、税務登記の抹消のみ未済で、税務登記は元の地区のままとなっているといったケースも過去には発生しており、移転に際しては、事前に当局の意向を確認しておく必要があるといえます。
また、中国現地法人においては、営業取引等で使用する発票(領収書)は所管税務局の管理のもとで発行する形となっているため、「転出地の税務登記抹消後、転入地の税務登記が完了するまでの期間において、発票の発行ができない」といった問題も生じてきます。よって、この期間に発票が切れないことを、事前に取引先に通知しておくといった対策が必要となってきます。
この様な税務関連の注意点の他に、税関の問題も挙げられます。奨励類として免税で機械設備を輸入している場合、その管轄は元の税関に属しているため、移転に伴い転出地側、転入地側、双方の税関との折衝が必要となってきます。
 
○ 最後に
企業の移転に係る各種弊害を回避するため、地方においては関連通達を出し是正を図っているケースもあります。
上海市においては、2009年3月4日付で、『企業の区を跨ぐ移転に関する管理強化の通知』を公布し、スムーズな手続きの要求や、規律違反に対する厳粛な処理の実施、企業移転に関する区県の利益の調整等を規定しています。更にこの後も、移転に伴う税務手続きを規範化した通知を公布したりと、移転手続きの更なる改善を図っている状況です。
この様に、市内の移転については、徐々に緩和されつつある状況にありますが、省や市を跨ぐ移転については未だに難しい状況にあるといえます。実務上、省や市を跨ぐ移転においては、スムーズな移転手続きが難しく、新たな会社を設立し、事業の引継ぎ行った後に、既存の会社を清算するといった形を取るケースが現実的なようです。
企業の移転においては、今回ご紹介した内容を十分に吟味し、慎重にご検討されることが必要といえるでしょう。
 
以上
上海駐在 小原 英
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