上海駐在レポート

第 26 回「中国ビジネスの撤退①」

 第 26 回「中国ビジネスの撤退①」

    「人件費高騰による労務コストの増加」、「市場が成熟してきたことによる競争の激化」、「外商投資企業向け優遇政策の撤廃」などによる経営環境の変化に、近年、中国企業との合弁契約の更新を迎える企業が多いこと(1990年代に中国企業との合弁で進出を果たした企業の多くが、近年、合弁契約の更新時期に差し掛かっています)も重なり、現在、中国事業からの撤退を検討する企業が増えてきています。
    また、尖閣問題を発端とした日中関係の悪化、それに伴う日本製品の不買運動などから、多くの企業が、改めて中国への投資リスクを意識するようになりました。
    こういったネガティブ要因が増えたからといって、すぐに撤退を検討するのはあまりにも安易であり、中国ビジネスにおいてはリスクを認識しつつ、事業の収益性や意義を考慮し運営していく必要があるといえます。しかし、最悪のケースに備えて、事前に撤退における手続きや注意点などを踏まえておくことも、企業の事業運営においては必要となってきています。
    今回及び次回レポートでは、中国ビジネスの撤退をテーマとし、撤退の方法や各方法における手続きの流れ、留意点などをご紹介していきたいと思います。  

 

○撤退の方法
    中国事業からの撤退の方法としては、主に、「出資持分譲渡」、「解散・清算」、「破産」の3つに分けることができます。(次項【撤退方法比較表】参照)
    撤退時にどの方法を選ぶかについては、「投下した資本をいかに回収できるか」、「撤退に伴う時間や労力をいかに少なく抑えることができるか」といった点のほか、「撤退方法を選択するための要件」といった法的側面や、「従業員との労働契約」といった労務面の問題も考慮する必要があります。特に労務面については、撤退において最も問題となり易い事項の一つであり、従業員の解雇に伴う労働争議によって、撤退がスムーズに進まなくなるケースがしばしば見られますので、十分に注意が必要といえるでしょう。
    なお、破産は企業が債務超過に陥った場合に行う法的手段であり、外商投資企業においては、撤退時に債務超過である場合、一度増資を行って債務超過を解消した後に「解散・清算」を行うケースが一般的であり、日系企業の破産は稀といえます。上記理由より、破産を除外して考慮すると、一般論としては、解散・清算より、持分譲渡の方がスムーズであるといわれています。これは、解散・清算と比較して、持分譲渡の方が、手続きが簡単でスピーディーに行える上、法人格が存続することにより従業員の解雇を行わずに済むためです。ただし、持分譲渡は、譲渡相手がいて初めて可能となる撤退方法であり、譲渡相手見つからない場合、採用できない手法です。たとえ見つかったとしても従業員から反対を受けるケースや、当局の認可が下りないケースもあり、決して簡単な方法とはいえません。また、中国企業との合弁会社からの撤退で、譲渡相手がいない場合、無償同然で持分を中方に譲渡せざるを得ないケースも頻繁に見受けられます。


【撤退方法比較表】

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○ 出資持分譲渡
    出資持分譲渡は、企業が有する出資持分を合弁相手もしくは第三者に譲渡することにより、事業から撤退する方法です。
    この方法による撤退の最大のメリットは、何と言っても「会社組織としては存続していくため、従業員の解雇が不要であり、それに伴う補償も不要であること」にあります。また、外商投資企業の撤退の場合、撤退に際してこれまで享受してきた税制面での優遇や補助金の返上を求められることがありますが、譲渡相手が外国企業の場合、外商投資企業という分類に変更がないため、これまで通りの優遇・補助をそのまま引き継ぐことができます。
    出資持分譲渡の要件としては、前述の表に記載の通り、①董事会の全会一致決議(3分の2以上の董事が出席した董事会における全員の同意決議)、②当局の認可、③当事者間の合意(合弁会社の場合)にあり、この条件を満たす場合、譲渡が可能となりますが、合弁事業における撤退については合弁相手に優先的に持分売却を検討する必要があります。これは、法律上「合弁会社の持分譲渡の場合、合弁パートナーが持分の優先購入権を有し、第三者に譲渡する場合においても、当初合弁パートナーに出した条件より優遇してはならない」とされているためです。なお、合弁相手側には、「第三者への譲渡に同意せず、かつ自らも優先購入権を行使しない」ということは認められていません。しかし実務上、地方当局によっては、これらの法律を必ずしも運用するとは限らないため、合弁での中国進出においては、設立当初の「合弁契約書」や「会社定款」に持分譲渡についての規定を明確に記載しておくことが望ましいといえます。
    次に、持分譲渡での撤退におけるデメリットについてですが、「適当な譲渡相手を探すのに相応の時間、労力が掛かる可能性がある点」が挙げられます。譲渡相手の選定は、実務上、取引先や弁護士、コンサルティング機関、取引銀行などを通して探していくこととなりますが、例え購入意欲のある先を見つけることができたとしても、出資者変更に伴う労働環境の変化を恐れる従業員から賛同が得られず持分譲渡が不調に終わるケースや、一般的に外商投資企業の撤退は、その地域の投資環境の悪化イメージとなり、当局にとって業績(投資実績)のマイナスとなるため、現地政府から認可が下りず、持分譲渡が不調に終わるケースもあります。持分譲渡先についても、「中国企業ではなく、外国企業を探すことを要求される」、「自社よりも格上、もしくは同程度の企業を要求される」といった事例も発生しています。また、事業分野によっては(例:銀行、証券、保険、運輸業など)出資者に規制が設けられていることもあり注意が必要です。よって、「譲渡ができるのであればどこでもいい」といった考えは安易であり、こういった事例を考慮して譲渡先を探す必要性があるといえます。

 

【出資持分譲渡における手続きフロー】

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○最後に
    今回のレポートでは、撤退手法の一つである「出資持分譲渡」について、主にご紹介させていただきました。
    撤退は設立と比較しても遥かに難しく、各企業においては、自社のおかれている経営環境、今後の市場動向の予測、取引先との関係性、従業員の雇用、撤退に掛かる費用等を十分に吟味した上、冷静に判断を下す必要があるといえます。特に、合弁事業からの撤退においては、当初の合弁契約や定款の内容を十分に確認し、相手方との交渉・手続きを行うことが重要となります。
    今回ご紹介した内容を踏まえ、次回のレポートでは、「解散・清算」、「破産」及び撤退時に最も問題になり易い「従業員問題」についてご紹介していきたいと思います。

 

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