上海駐在レポート

第 24 回「中国の商標権について」

 第 24 回「中国の商標権について」

    日本人が「中国」と聞いて抱くイメージの一つとして、「模倣品の多い国」といったものが挙げられるのではないでしょうか。実際に街を歩いていても、有名ブランドのロゴを真似た商品や、誰もが知っている人気キャラクターグッズの模倣品などを見かけることが多々あります。また、最近の事例でいえば、アメリカのアップル社が「iPad」の商標をめぐり、中国企業に多額の和解金を支払い、商標権を獲得したことは、皆様の記憶にも新しいかと思います。
    こういった模倣品は、放っておくと売上に悪影響を及ぼすだけでなく、ブランドイメージの悪化へと繋がることもあり、中国でビジネスをする多くの企業にとって頭を悩ませる問題となっています。
    企業が模倣品対策に取り組むにあたっては、「知的財産権」を登録することが大前提となりますが、今回のレポートでは、知的財産権の一つである「商標権」にスポットをあて、その制度概要や、登録の流れなどを中心にご紹介したいと思います。
 

○中国の商標制度の概要
    中国の商標権については、日本と同じく「先願主義(一番初めに出願した者に権利を付与する制度)」が取られており、商標出願は「中国商標局」に行います。近年では、模倣品トラブルが続出していることより、商標出願は年々増加の傾向にあり、結果、商標局の審査が追いつかず、登録が完了するまでに長期間かかってしまうケースも多く聞かれます(一般的には、異議申立がない場合で出願申請から1年程度、ある場合で2年程度の期間が必要となります)。
    商標権の有効期間についても日本と同じく10年であり、期間満了前12ヶ月以内に更新申請をすることにより、更に10年間有効期間を延ばすことが可能です(登録更新を出願しない場合、当該商標の登録は抹消されます)。
    登録できる商標としては、商品商標、サービスマーク等の他、文字や図形、音標文字、数字、立体標識なども可能とされており、出願においては、中国語の文字からなる商標だけでなく、ローマ字や日本のひらがな・カタカナも使用することができるとされています。
    前述した通り中国の商標権は、「先願主義」であり、海外で有名なブランドであっても、中国で名前が売れていない場合、無関係な第三者が商標権を比較的容易に登録できてしまうため、この制度を利用した悪質な業者や個人による権利侵害が深刻な問題となっています。こういった権利侵害の問題や、登録完了までに長期間を要することを考慮しても、登録申請は、思い立ったら早め早めに行うことが望ましいといえるでしょう。なお、商標登録費用は、弁護士や専門機関への代理申請費用を含めても一件4,000~5,000元(約76,000~95,000円)程度であり、比較的リーズナブルとなっております。


【商標登録出願件数推移】

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参照:中国商標局HP

○ 中国における商標登録の流れ
    商標登録のプロセスは後述のフロー表の通りですが、登録においては、まず登録を希望する商標が既に中国で登録されていないか、類似する商標の登録がないかなどの事前調査をすることから始まります。この「事前調査」は、必須ではなく任意で行うものですが、登録完了までに長期間を要することや、登録前に商標等を使用する場合の安全性の確保(既に他者が登録している商標権を侵害してしまうリスクの回避)といった観点からも、行っておく方が望ましいといえるでしょう。なお、商標情報については、①商標局等の公的機関のウェブサイトで自ら検索する方法と、②日本又は中国の法律事務所、商標代理事務所等に調査依頼する方法とがあります。①の方法は誰でも無料で確認することができますが、類似する商標まで調べるには専門知識が必要となります。よって、この時点で商標代理機関に委託するケースが一般的です。
    事前調査終了後、出願申請を行い、出願後1ヶ月程で受理通知が届きます。受理通知が届き、出願番号が付与されると、商標局の審査が開始されますが、まずは「方式審査」によって審査書類が整っているかなどの形式的な審査が行われます。この時点で不備があった場合、商標局から補正の通知が届きますので、滞りなく補正を行う必要があります。
    方式審査後は、「実態審査」です。実態審査にて、出願内容が要件を満たしているかの審査が行われ、審査の結果、要件が適合する場合、商標局により公告が行われます。公告後3ヶ月間の異議申立期間があり、その間に異議申立がない場合、晴れて登録が承認され商標登録証が発給される形となります。なお、異議申立がなされた場合、商標局による、異議者・被異議者への調査が行われ、異議決定が下されます。異議決定の結果、異議が不成立の場合は登録承認、成立の場合は再審査の請求が必要となります。なお以前は異議申立がなされた場合、その審査期間として2~3年かかってしまうケースが大半でしたが、現在では異議申立から12ヶ月以内に登録可否の決定をするように法令で定められ、申請の簡素化が図られています。
    前述が実態審査にて要件が適合した場合の登録までの流れですが、審査にて、登録拒絶理由が発生した場合、商標局より出願拒絶が行われます。この「拒絶」にも、全て拒絶されるケースと、一部分が拒絶されるケースとの2パターンがあり、部分拒絶の場合は、その拒絶された部分を諦めて、それ以外の部分で登録することも可能です。拒絶に対して不服を申し立てる場合は、再審請求へと移りますが、再審については商標局ではなく、商標評価審査委員会が管轄する形となります。なお、再審において、商標評価審査委員会の決定に不服がある場合、当事者は、人民法院に対し訴えを提起できるものとされています。

 

【商標登録の流れ(一般的事例)】

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○最後に
    中国の「商標権」については、『中華人民共和国商標法』にて規定されており、本法律は1983年3月の施行後、1993年2月、2001年10月、2013年8月と、これまで三度の改正がなされています。特に2013年8月の改正以前は、商標制度を利用した権利侵害が横行していることや、登録制度が煩雑であることなどの問題が残っておりましたが、2013年8月の三度目の改正により、「商標登録申請の審査期間等の明確化」や「悪意ある異議申立の制限」、「商標権侵害に対する処罰の強化」などの内容が盛り込まれ中国における知的財産保護の強化がなされました。
    なお、今回ご紹介した「商標権」以外にも、中国には「発明専利権」、「実用新型専利権」、「外観設計専利権」といった知的財産権があり、それぞれ日本での「特許権」、「実用新案権」、「意匠権」に相当しています。これらの知的財産権に対する出願申請件数も、年々増加の傾向にあり、この点からも各企業における模倣品対策の重要度が増してきていることが読み取れます。
    中国でビジネスをする各企業においては、こういった模倣品対策に今後も注力し、自社の知的財産を保護していくことが求められてくるのでしょう。

 

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