上海駐在レポート

第 23 回「中国現地法人の経営範囲について」

第 23 回「中国現地法人の経営範囲について」

    外国企業が中国で現地法人を設立する際、重要となってくる検討事項はいくつかありますが、その中の一つとして、「経営範囲の決定」が挙げられます。

    中国において企業は、営業許可証(企業が法律に基づき設立されたことを証明する文書、工商行政管理部門が発行)に記載された経営範囲内の事業についてのみ活動を行うことができ、特に外商投資企業においては、その経営範囲について当局より厳しく管理されています。そして、営業許可証に記載のない営業行為を行った場合、経営範囲の逸脱として厳しい罰則を受けることとなってしまうケースもあるため、会社設立時には経営範囲について十分に吟味する必要があるといえます。
    今回のレポートでは、会社設立時の経営範囲検討のポイントや留意点、経営範囲を逸脱した場合の罰則等を中心にご紹介させていただきたいと思います。
 
会社設立時の経営範囲の検討について
    中国では、以前は、原則として一つの会社で複数の業種の事業を行うことはできないとされていました。よって、販売をメインで行いたいのであれば販売会社、製造を行いたいのであれば製造会社、コンサルティング業務ならコンサルティング会社、内装工事であれば内装工事会社といったように、複数の業種の事業を行いたいのであれば、複数の会社を設立することが必要となっていました。現在ではこの様な規制も徐々に緩和され、例えば、製造会社でも販売業務を行うことができるようになりましたが、業種によっては制限が残っており、一つの会社に複数の業種の経営範囲を持たせることは、未だに容易ではない状況にあります。
    中国ビジネスに携わっている方の中には、当地で名刺交換をした際に、名刺に複数の会社名が記載されているのを見たことがある方もいらっしゃると思いますが、これは、上記の様な中国の業種に対する制限によるものです。なお、企業の経営範囲は当然、この業種毎の特徴を鑑み検討することとなりますが、業種柄経営範囲に含めることができない内容があったり、事前に当局へ内容確認をすることが望ましいケースがあったりと、検討時には慎重に対応することが必要となります。
    以下では、会社設立時の経営範囲の検討において、注意が必要となる点をご紹介したいと思います。
 
1.「許可経営項目」と「一般経営項目」
    経営範囲は、企業が経営活動に従事する業務範囲とされており、工商行政管理部門により厳格に管理されていますが、経営範囲にも「許可経営項目」と「一般経営項目」の2つの項目が存在しています(『企業経営範囲登記管理規定』)。
    「中国において企業は、営業許可証に記載されている経営範囲内の事業を行うことができる」と前述しましたが、取扱品目によってはこの営業許可証への記載の他に、関連する監督機関より個別認可を別途取得しなくては取扱うことができない品目もあり、これらの品目の取扱いに該当する経営範囲が「許可経営項目」とされています。具体的には、食品やお酒、医療機器、危険化学品(2012年6月号のレポートご参照)の取扱いなどがこれに該当し、これらの取扱いに際しては、各関連当局からの個別認可が必要となります。なお取扱品目によって、営業許可証の取得前に個別認可が必要となるものと、取得後でよいものとがあり、場合によっては、「営業許可証の経営範囲には記載があるものの、実際には取扱うことができない」といったケースが発生することも有りえます。
    「許可経営項目」に該当する品目について、認可を取得せずに取扱った場合、「罰金が科される」、「その取引によって得た所得が没収される」などの罰則があり、会社設立前には取扱品目が「許可経営項目」に該当していないかを必ず確認する必要があるといえます。なお、「許可経営項目」の個別認可の取得についても、品目によって、認可取得に掛かる期間や認可の難易度が異なるといった違いがあり、この点についても重ねて注意が必要です。
    「許可経営項目」に対して、特段の個別認可が不要で、営業許可証に記載があれば企業が自由に取扱える品目に関する経営範囲が「一般経営項目」と呼ばれています。
 
2.経営範囲と資本金額
    前述にて、「一つの会社で複数の業種の事業を行うことは容易ではない」と記載しましたが、例えば「販売会社」という括りであれば、その一つの販売会社で多くの品目を取扱うことは可能です。具体的には、一つの販売会社の経営範囲内に、「電子製品、精密機器及びその部品、木材及び木材製品、ゴム及び関連製品、プラスチック及び関連製品、機電設備、貴金属、繊維製品・・・の卸売、輸出入、コミッション代理及びその他関連サービスの提供」といったように幅広く内容を記載し、多くの品目を取扱うことができるようカバーすることもできます。ただし、この際に注意が必要となってくる点が、「資本金の金額」です。
    経営範囲に多くの内容を含む場合、申請時に当局より、「予定している資本金額では、経営範囲の内容の業務を取扱いきれないのでは」といった理由で経営範囲の内容を減らすよう求められるケースや、逆に資本金額の増加を求められるケースが考えられます。なお、この経営範囲と資本金額の関係については、「どの程度の経営範囲で、どの程度の資本金額を求められるのか」といった点は非常に曖昧で、実務上は審査を行う担当官によっても変わってくるため、一概にはいえない状況です。よって、多くの経営範囲を想定している場合、どの品目の取扱いを優先に行いたいかの順序付けをしておくことが望ましいといえるでしょう。
    なお、『中華人民共和国会社法』の規定では、有限責任会社の最低資本金については、3万人民元(約39万円)とされていますが、実際の運営上は、事業計画や経営範囲の内容等に見合った適正規模の金額を求められるのが一般的であり、あまりに小額での設立申請は認可が難しいというのが実状となっております。
 
経営範囲を逸脱した場合の処置
    経営範囲を逸脱した場合の処罰については、『企業法人登記管理条例』、『無許可証経営調査・処理・取締弁法』など、いくつかの法令により規定されており、これらの規定によると下記のような処罰が与えられるものと考えられます。
工商行政管理部門からの警告
罰金(違反行為の規模により、罰金の金額は異なる)
不法所得の没収
営業停止または営業許可証の取り消し
刑事法律に抵触する場合、不法経営罪、重大責任事故罪、重大労働安全事故罪など刑法の規定
による罰則
    なお、経営範囲の逸脱行為における法定代表者の処罰についてですが、当該違法行為に法定代表者が個人的責任を負っている場合、行政罰が科され、かつ当該違法行為で企業が営業許可証を取り消された場合は、その法定代表者は営業許可証の取り消し後3年間は法定代表者になることができないと規定されています。
    また、経営範囲を逸脱して締結された契約においては、契約自体が無効とされる可能性もあるため、契約締結に際しては、相手方の経営範囲の内容も確認しておくことが望ましいといえます。
 
最後に
    今回ご紹介した経営範囲については、会社設立後、会社を運営していくにあたっても非常に重要な要素となってきます。「知らずに許可経営項目の事業を行ってしまい罰則を受けてしまった」などといった事態が起こらぬよう、設立前に自社で行いたい事業の内容と経営範囲とについて、十分吟味することが必要です。
    なお、会社設立後であっても経営範囲を変更することは可能ですが、変更に伴い定款の修正や関連当局への再申請等が必要となり、相応の手間やコストが掛かってしまうため、経営範囲についてはやはり会社設立時に慎重に検討するべきといえます。            (1元≒13円)

 

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