上海駐在レポート

第 22 回「中国での工場進出検討について」

第 22 回「中国での工場進出検討について」

    現在、既に多くの日本の企業が中国に工場を設立しています。その目的は企業によってそれぞれ異なると思いますが、「より低コストで製品を生産するため」であるとか、「新たなマーケットを開拓するため」といった理由が多く聞かれます。また、「主要取引先が中国に進出し、それにつられる形で進出した(中国で生産しないと取引をしてもらえなくなった)」などという理由も近年ではよく耳にします。

    では、実際に中国で工場を設立する場合、どういったプロセスを踏み、どういった点に注意が必要となってくるのでしょうか。外国企業が中国で工場進出をするにあたっては、複雑な手続きや様々な許認可が必要になりますが、ここで誤った手続きを踏んでしまい、後々問題が発生してしますケースも頻繁にあるため、まずは進出検討段階で十分な確認を行うことが重要となります。
    そこで今回のレポートでは、工場進出の第一段階となる検討ステップについて、ご紹介したいと思います。
 
「開発区」とは
    中国への工場進出では、自社で土地使用権を取得し、工場を建設するケースと、既に出来上がっている工場をレンタルし、そこで生産を行うケースの大きく2つに分けることができますが、いずれにせよ進出時に「開発区」を利用するケースが大半を占めます。
    「開発区」とは、外国投資を促進するために設けられた工業エリアのことであり、中国における対外開放地域の一つとされています。1978年からスタートした中国の「改革開放政策」により、中国市場が外国に開放されたことをきっかけに、開発区は当初、沿海部(上海、大連、天津、青島、広州など)に設置されました。その後、内陸部にも設置されるようになり、現在では、設置地域は中国全土に広がっています(同じ都市でも複数の開発区が存在しています)。なお、開発区にもレベルに応じて、国家級、省級、市級、県級と区分されており、それぞれ規模、インフラ整備状況、優遇政策の内容、許認可権限などが変わってきますので注意が必要となります(企業誘致の実績に応じて省級から国家級へ変わるなど、昇格することもあります)。
    小職も実際にいくつかの開発区を視察したことがありますが、国家級開発区の多くは、鉄道、高速道路などの交通網が充実しており、区内には、ホテル、学校、病院など生活に必要となる施設が全て揃っているなど、そのスケールには目を見張るものがあります。
 
工場進出の検討プロセスについて(一般事例)
    工場進出における検討プロセスは後述のフローの通りですが、工場プロジェクトにおいてはまず、設立候補地域の選定が第一ステップとなります。
候補地域を選定する際のポイントは業種や各企業の戦略などによりまちまちですが、この段階においては、「物流面での立地はどうか」、「顧客とのアクセスは」、「市場としての魅力はあるか」、「必要なインフラ整備が確保できるか」、「ワーカーの賃金は」などを考慮する企業が多いのではないかと考えられます。また、同業他社の進出地域を確認することも検討のための一つの指標となるといえるでしょう。
    上記のステップにより設立候補地域を数都市に絞ったら、次に「開発区」を通しての情報収集、現地視察へと入っていきます。なお、「開発区」を管理しているのは、国や省などから権限の委譲を受けている「開発区管理委員会」であり、新規工場進出においては、まずはこの開発区管理委員会の「招商局」と呼ばれる主に企業誘致を担当する部門と接点を持ち、進出に向けた投資環境のヒヤリングや、投資条件の交渉を行うこととなります。
具体的には、土地使用権の取得費用(レンタルの場合は工場レンタル費用)、電気・水道・ガス等のインフラ整備状況・その価格、税制面やその他の優遇政策の有無、工場設立における開発区の支援体制(会社設立手続などにおいて、どの程度サポートしてくれるのか)などの確認、交渉が重要となってきますが、この際、複数の開発区とコンタクトを持ち、各開発区が提示してくる条件を交渉材料とするのも有利な優遇条件を引き出すための有効な手段といえます。
    開発区からの情報収集、各種交渉が終わったら、いよいよ進出地を決定し、進出する開発区との最終条件確認(場合によっては再交渉)を行い、開発区と「投資意向書」を締結することとなります。なお、このステップにおいては、これまで以上に十分に時間を掛け、細かい部分まできちんと確認する必要があります。というのも、「招商局」は投資誘致を担当するといった立場上、楽観的なスタンスを取り易く、また招商局が法制度・政策を全て熟知しているとは限らないため、企業にとって不利益となる情報を見落としてしまったり、それにより誤った手続きを踏んでしまうことで時間も労力も浪費することになってしまうケースが多々あるからです。特に環境面については、きちんとした確認を行っておかないと、最悪のケースでは「進出自体が認められなくなる」といった問題が発生してしまう懸念もありますので、十分な注意が必要となります(工場進出における環境面での注意点につきましては、2012年8月号のレポートをご参照下さい)。
 
【工場進出における検討フロー(一般事例)】
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最後に
    今回のレポートでは、中国への工場進出の検討について、「開発区」を中心にご紹介させていただきましたが、各開発区ともに企業誘致に対する姿勢は非常に熱心であり、日本から出張に来られた方々はその歓迎スタンスにしばしば驚きを示します。「中国ビジネスにはお酒が付き物」とはよく言われますが、積極的な投資誘致のスタンスは、昼夜問わずのお酒の席での乾杯にも繋がっており、これがまさに中国ビジネスの醍醐味の一つとも言えるでしょう。
    なお、開発区にも一般企業のように目標があり、各開発区が最も関心を示す要素は「資本金額(実際の投資額)」や「今後その企業が入居することにより、区内にどの程度の税収をもたらすことができるか」といった点にあるようです。上記の金額が多額である場合、「土地使用権の取得費用は実質免除(支払った後に還付あり)」であるとか、「進出後数年間のインフラ費用(電気・水道・ガスの使用代金)を大幅に減免する」といった優遇を取っている開発区もあり、開発区選定は工場進出における重要なファクターとなり得ます。
    中国ビジネスに携わっている者の立場としても、工場進出の際には、今回ご紹介した「開発区」の利用を推奨致します。

 

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