上海駐在レポート

第 99 回「独身の日」

皆さんは11月11日が何の日かご存知でしょうか。ここ中国では「独身の日」として有名です。そしてこの「独身の日」にインターネットショッピングサイトではセールが催されます。この頃になると、この時ぞとばかりにネットショッピングを楽しむ人口が急増し、宅配ロッカーが溢れかえる光景を多く眼にします。その売上規模が大きい事から、近年では海外でも報道されるようになり、日本でも知名度が上がっています。今回はこの「独身の日」についてレポートしたいと思います。


〇独身の日とは

日本語では「独身の日」と訳されていますが、中国では元々「光棍節」と呼ばれていました。直訳は「光る棒」という意味ですが、昨今では独身者を意味する言葉となっています。そして今では中国でも「光棍節」とは言わず、2つの11と言う意味で「双十一」と表現する事が多くなりました。この独身の日が中国最大のインターネットショッピングのセール日となったのは、この日が中国ネットショッピング最大手「タオバオ」を運営するアリババが2009年に設定したセールス日の一つだという非常に単純な理由で、彼らの宣伝が功を奏して有名になったと言われています。中国企業の決算月は12月で、決算前に売上げを大きく伸ばす目的があると見られます。


〇独身の日の売上

日本でも報道されている通り、独身の日の売上規模は年々増加傾向にあります。2019年の11月11日の1日の各ショッピングサイトにおける売上を見ると、アリババが運営するBtoCのショッピングサイト「T-mall(天猫)」の売上高は2,684億元(約4兆1,414億円)と、驚くべき数字が公表されています。これは2,135億元(約3兆2,943億円)だった2018年の売上高と比べると549億元(約8,471億円)もの大幅な増加となりました。これは単一のショッピングサイトのみの売上で、その他複数のショッピングサイトを含めると11月11日の1日の中国ネット販売の売上は莫大な金額に上ります。
中国では1日の売上が注目されていますが、その注目の尺度が年々加熱し、現在では時間単位の売上が着目点になってきています。「T-mall(天猫)」では独身の日に大々的にイベントを開催し、その模様を実況中継したほどです。



〇複雑化するセール

「T-mall」は91秒で100億元、5分25秒で300億元(約4,629億円)、1時間3分で1,000億元(1兆5,430億円)を達成したと発表しています。中国ではこの1時間3分で1,000億元の売上突破を取り上げている記事が多く、やはり記録を作りたいという熱意が垣間見えます。
実際にも記録づくしの独身の日ですが、実はこの売上には仕組みがあります。元々独身の日のセールは11月11日から1週間程度の期間があったのですが、近年ではこの1日だけと限定している点がその一つです。また、今年はその宣伝も2週間ほど前に開始されていました。
セール品の購入形式は各ショッピングサイトによって異なり、ショッピングサイトの割引券を事前に買う方式や、買う権利を事前に登録する等、様々な方法で割引を効かせる事ができます。最もお得に購入したい場合は事前に割引券を購入し、買う権利を登録した商品を購入する方法です。
ただ、この方法の場合は、買う権利を獲得した商品が売り切れてしまう前に買う必要があります。そのため各購入者が11月11日になった瞬間にいち早く購入しようとサイトに殺到する結果、短時間でこの莫大な売上高が達成可能、と言うわけです。筆者も11月11日になった瞬間にサイトにアクセスしようと試みましたが、なかなかアクセスが出来ませんでした。職場の中国人に聞けば、無線電波のスマホからでは遅すぎるため、有線のパソコンでなければ買い物は出来ないとの回答でした。
その他にも、アプリを紹介して3人の友人に登録してもらう事で100元(約1,543円)の現金を入手できる制度を取っているショッピングサイトもありました。中には親戚や友人に依頼を繰り返して600元(約9,258円)近くを稼いだという同僚もおり、この11月11日の熱に圧倒されました。


〇注目された商品

今回のセールで最も注目された商品はスマートフォンでした。中国ではスマートフォン購入時には先ず本体を購入してから通信会社へ行き、各自で電話番号を選びSimカードを購入します。一般的には日本のような定額制ではなく、プリペイド式です。従来のセールでスマートフォン分野では最もAppleのスマートフォンが売れ筋でしたが、今回のセールではHuaweiのスマートフォンが最も売れ行きがよかったと発表されました。
依然として中国でも人気の高いAppleのスマートフォンですが、最近では風向きが変わってきており、Huaweiの方が選ばれるようになってきています。日本の報道では米中貿易摩擦に結び付けた記事を目にするものの、筆者の周りの中国人にHuaweiを選択した理由を尋ねると、値段の割にカメラ機能が良いのだと言う意見が多く聞かれます。何故なら中国の若者はとにかく写真を撮る事が大好きで、若者が自分の姿を撮影している場面、いわゆる自撮りを頻繁に見かけます。その写真の撮影技術には目を見張るものがあり、同僚達と写真を撮る際には必ず指導が入ります。また、旅行先で写真を依頼すると時にはカメラを傾けて芸術的な写真を撮ってくれる人もいるほどです。
このような理由もあって近年はHuaweiが人気になっているようです。


〇注目された人

 今年注目されたのは商品だけではありません。現在中国のネットショッピング事情で欠かせない人物がいます。それはラアさんと言う女性で、「タオバオで一番のキャスター」と言われ、ライブコマースと称されている、日本で言うところのテレビショッピングのネット版のキャスターです。ラアさんはそのライブコマースで最も人気があり、ラアさんの去年の独身の日の1日の売上は3.3億元(約51億円)でした。それだけでも十分に凄さがありますが、今年は去年1年間の販売額である27億元(約416億円)を1日で超えたと言われています。また、「T-mall」では今年の11月11日の1日のライブコマース販売の売上高が200億元(約3,086億円)に達したと公表しています。一部のカテゴリーでは売上が去年対比400%増加し、ショッピングサイトに出店している店舗の50%程度がこのようなライブコマースを利用しているとも言われています。
人気と同時にコンプライアンス上の課題も発生しており、例えば実際に購入した商品が実演していた商品の性能と相違があると言った問題が起こっています。いずれにしてもライブコマース業界は今後更なる拡大が期待されており、世界中が注目する新たな市場となっています。


〇おわりに

筆者の同僚達は11月は「双十一があるから節約しなければいけない」と言い、そして11月11日以降には「買い物をしすぎてお金がない」と皆口を揃えて言います。インターネット通販を利用した事がある方であれば、筆者同様についつい衝動的に買ってしまいお金を無駄遣いしてしまった経験があるかもしれません。景気低迷が囁かれている中国ですが、彼らの購買意欲を目の前にすると中国国内需要の旺盛さに驚かされます。日本では多くの人が、どんな好景気も持続せず、いつか経済の下り坂に直面する時が来ると思い、蓄財します。しかし下り坂を知らない今の中国の若者たちが今後、どのように中国を牽引していくのかを、多くのベンチャー起業が存在し、急速な成長を遂げている深センで注視したいと思います。




(1元≒約15.43円)
以上
深セン駐在 吉田

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