上海駐在レポート

第 98 回「中国の月餅事情」

日本で月餅を食べる機会はあまり多くないのではないでしょうか。ここ中国では月餅と言えば中秋節です。中秋節は旧暦の8月15日で、日本では十五夜がちょうど中秋節に当たります。中国では中秋節と土日を合わせて三連休にする為、毎年変動しますが、今年は9月13日が中秋節となりました。中秋節の満月が家族の団欒を意味し、家族で月を見て食卓を囲む伝統の日です。またこの時に日本の月見団子と同様に、月に見立てた丸い月餅を食べる事が風習として広まったと言います。
現代の中国では中秋節前に親しい人やお世話になっている人に月餅を送る文化があります。実際に筆者の職場では日頃お世話になっているお客様に月餅を贈る文化がある等、中国企業では当たり前の行事となっています。月餅を配るさまはちょうど日本の中元、歳暮のような文化と重なるように思われます。また、筆者の周りの中国人スタッフ達は「どこの月餅が美味しいのか」、「月餅はもう食べたか」、「もう月餅は買ったのか」等の会話が繰り広げられる等、大事なイベントなのだと分かります。商店やテレビ、ネット通販の広告からもその商戦の激しさは明らかでした。今回、月餅商戦の結果が中国国内で注目されている事から中国月餅事情についてレポートしたいと思います。


〇各地域の月餅

中国の月餅は地域によって全く違う食べ物と言って良い程、特色があります。中でも広東風、蘇州風、北京風、雲南風が有名です。日本人が一般的に月餅として思い浮かべるのは広東風の月餅だと言われています。
広東風月餅の見た目は独特な木型で型を取り、表面はキツネ色をしている事です。中身は甘い餡が入っている事が多いです。日本ではあまり見かけませんが、広東省では甘い餡の中に塩漬けされたアヒルの卵の黄身が入っており、筆者の周りに居る日本人の多くはこの独特の黄味の味が苦手だと言います。また、中国人スタッフ達からもこの黄身が入った月餅が好きと言う話は聞いたことがありません。
蘇州風はサクサクの皮に包まれています。見た目はミートパイのような見た目で、中身は甘い物や塩味が効いた物、肉が入った物、種類は豊富です。筆者は月餅の中でも肉がたっぷり入った蘇州風の月餅が一番好きです。上海や蘇州地域では、温かいまま販売されており、おやつにぴったりだと思われます。
北京風は見た目はピロシキのような見た目ですが、中身はナッツやフルーツ、香料が混ぜられており、複雑な味わいです。雲南風の月餅もピロシキのような見た目ですが、中身にハムが入っているのが特徴であり、筆者も食べた事はないですが、中国人スタッフからはとても美味しいとの評判です。


〇若者向けの月餅

近年では、上で述べたような伝統的な月餅以外に数多くの月餅が登場しています。スターバックスの西洋月餅やゴディバのチョコレート月餅、ハーゲンダッツのアイス月餅等もあり、見た目も味もとても魅力的です。筆者もスターバックスの月餅を勧められ、スターバックスに足を運びましたが、月餅一つで約58元(約890円)とその高級さに驚きました。
中国で今年最も人気のあった月餅は香港美心月餅という月餅です。この美心月餅は、例年ナンバーワンの人気を誇る月餅です。この月餅は中身がカスタードクリームになっており、美味しい月餅だという事で人気になっています。筆者の職場の中国人スタッフ達も自分用に購入する人が多く、家で食べると言っているスタッフも見受けられました。


〇中国の月餅市場

以前より月餅商戦の加熱ぶりは凄まじく、入れ物や月餅に金箔を張り付けたものや月餅と時計等の高級品をセットで販売したりとその加熱ぶりが問題視された事もありました。2012年以降月餅と明記されている物には月餅以外のものを入れる事が禁止される等の措置が取られました。また、2013年には、公費での月餅購入が禁止されています。そのような中、月餅市場が拡大を続けているとのニュースを中秋節後によく目にするようになりました。上記のように若者向けの月餅が誕生し、自分で食べる為に買う人や贈り物としてだけではなく旬の食べ物としての需要を獲得した事で市場が拡大しているとの事です。
中国大手マーケティング会社が公表した情報によると2019年中秋節(9月13日)までに中国国内で販売された月餅の数は13.8億個にも及んだとの事です。中国の全人口が2018年末時点で約13.9億人と言われていますので、国民一人が各々1個ずつの月餅を食した計算になります。また、中秋節までの月餅の売上は約196.7億元(約3,019億円)と発表しています。
日本の贈り物商戦の一つである中元・歳暮について見てみると、各種公開情報によると2018年は日本の中元・歳暮市場は1兆7,000億円とされており、改めて日本の中元・歳暮市場の巨大さを知る事となります。しかし、その成長性については、日本の中元・歳暮市場が年々減少傾向にある反面、中国の月餅市場規模は年々増加傾向にあります。



○終わりに

 中国全土で繰り広げられる月餅商戦ですが、中秋節を過ぎると熱が一気に冷めていきます。月餅の賞味期限は約2か月ですが、中秋節後は賞味期限が残り1か月を切った月餅がそれまでの10分の1くらいの値段で安売りされるようになります。筆者も大安売りの月餅を自分用に購入しました。
大量に売れ残った月餅がどこに行くのかというと疑問が沸いてきますが、賞味期限切れの月餅をメーカーが再加工し、販売していた事が問題となって以降、月餅メーカーは食品の安全性確保の為、賞味期限が切れた月餅を回収する等しています。管理当局である食品薬品監督管理局についても食の安全性について厳しく監督しています。高級月餅等はブランド価値の維持の為、中秋節が終わると商品を回収して家畜等の餌としているとの事です。
今回の中秋節では様々な所で月餅が売られているのを筆者も目にしました。伝統の贈り物として見た目を重視したものや、味を重視したもの等、各社様々な工夫を凝らして販売しています。筆者も中秋節で何個も月餅を口にしましたが、香港では香港食品・環境衛生局から毎年、「脂肪や砂糖が多く含まれている」として食べ過ぎの注意が呼びかけられていますので、中国に来た際には月餅の食べ過ぎにはお気を付けください。




(1元≒約15.35円)
以上
深セン駐在 吉田

绮罗商务咨询(上海)有限公司 XFCSS .ALL Rights Reserved 沪ICP备18032119号-1
Copyright Kiraboshi Business Consulting Shanghai Co.,Ltd ALL Rights Reserved

沪公网安备 31010102005043号