上海駐在レポート

第 96 回「中国の幼児教育事情」

先般、筆者に第一子が生まれました。また同時に子供の教育というものについても考えるようになりました。
先日深セン市内を歩いていて、1歳程度の子供の父母と祖父母が「教育智能機械人(教育AIロボット)」と書いてある商品を持っている光景がふと目に入りました。筆者が深センに来た当初、深センで有名な電気街「華強北」に行った際にも「教育AIロボット」が店先に売っているのを目にした事を思い出しました。当時はまだ子供が生まれていなかったので流し見ていたのですが、子を持つ親となった今、改めて興味を持ったので今回は中国の幼児教育についてレポートしたいと思います。


〇中国の子育てについて


中国では2016年まで「一人っ子政策」が実施されていた事から子供に対する期待は日本以上のようです。一人っ子政策下に生まれた男の子を「小皇帝」、女の子を「小皇后」、「小公主」と言うようになりました。他にも1980年代以降に生まれた子供を「80後」、1990年代以降に生まれた子供を「90後」と言い、一人っ子で甘やかされ、わがままと言ったマイナスなイメージが含まれた使われ方をするようです。最近ではこの80後を親に持つ子供達の事を「熊孩子」といい、いたずらが過ぎる子供や悪魔のような子供と言った意味で使われるようです。実際に商店、レストラン、地下鉄で子供が走り回る光景はよく目にしますのでこのような子供達にきっと使われているのでしょう。
中国都市部では夫婦共働き家庭が多く、幼児期は田舎の祖父母に育てられると言った事も多く見受けられますが、筆者が駐在する深センでも同様に、共働き家庭が多いのが実情です。実際に筆者の周りに居る中国人の同僚に聞くと実家から祖父母が深センに来て子育てを手伝ってくれているそうです。

〇幼児教育事情について


<0~3歳まで>
中国では日本の保育園と同等の役割を持った託児所が存在しています。この託児所には私設と公設が存在しますが、一人っ子政策下では祖父母や母親による養育が一般的であった事から託児所の必要性が薄く、公設託児所は極めて少ないです。私設託児所では、高度な幼児教育を行う高級な託児所からマンションの一室で無資格な保育者が保育を行っている託児所まで幅広く存在しています。保育事情について、幼児を持つ同僚に話を聞くと、高級な託児所に通わせる事が出来る家庭は少なく、無資格保育者による託児所の虐待問題が一時期問題になった事から託児所に預ける事は殆ど考えないそうです。共働き家庭で且つ祖父母が養育できない場合はベビーシッターを雇う事を先に考えるとの事でした。

<3~6歳まで>
日本でも幼稚園が存在していますが、中国においても同様に幼稚園が存在しています。幼稚園では「入学難、入学貴」と言った問題が存在しています。この言葉は、家庭の教育や経済レベルに見合った公立幼稚園に子供を入園させるのは難しいが、私立幼稚園は学費が高すぎるという意味で使われています。特に深センは、人口増加が著しく、地方政府が発表している居住人口(2018年末約1,300万人)より多くの人口が存在していると言われ、更に市としての歴史も浅く、教育施設が需要に追い付いていないと言われています。公立幼稚園の園児募集の時期が公開されると、子供を公立幼稚園に入園させようとする保護者が数日前から門の前に徹夜で並ぶのが恒例のニュースにさえなっています。

〇幼児教育について


幼児教育について様々な考え方がありますが、「少しでも良い教育を」と望む家庭が大多数なのではないでしょうか。。
中国では、人口の多さから日本以上の競争社会が存在しています。我が子に少しでも有利な教育をしたいと考える家庭が多く、現在では0歳から教育がスタートするのです。幼稚園に入学する頃には英才教育を施すのに祖父母では足りないと考える家庭が多く、普通語、英語、科学と言った習い事に通わせる家庭が多く存在しています。普通語については、中国では地域によって全く違う方言を話すため、中国での一般的な言語として北京語を学習しています。英語については、2000年代初頭から小学校の英語必修化が始まり、幼児期から英語に耳を慣れさせます。科学については、幼児期に考える力を養うと将来考える力は衰えないとの事から科学実験教室や子供用プログラミング学習行います。
筆者が先日見た「教育AIロボット」は、この普通語、英語と言った項目に対応している機種がほとんどです。高性能のロボットは一緒に踊り、一緒に歌を歌い、読み聞かせをし、英語や数学を教えると言った機能が搭載されています。AIロボットの開発会社の一つである北京進化者機器人科技有限公司(EVOLVER)は小胖機器人(FABO)という幼稚園や小学校向けのAIロボット提供しており、一台当たり69,800元(約104.7万円)と高額なロボットを販売しています。実際に幼稚園で先生の助手として現場に導入されており、主に先生の代わりに歌を歌い、読み聞かせして先生の労力の減少に一役買っています。更に入園希望者の増加にも繋がると言った理由で導入されています。

習い事に通わせるお金を極力減らしたいが、子供に良い教育をと考えた結果、現在ではインターネットを活用した教育に注目が集まっています。主に小、中学生をメインターゲットとしたオンライン学習プラットフォームが多く、最もユーザーが多いのが「作業幇」です。「作業幇」の特徴は数学の問題をアップロードすると、アプリに登録している実際の数学教師が回答してくれるという生徒にとっては夢のようなアプリとなっています。一方で、問題の解答だけを得て、考える力が無くなってしまうのではという疑問の声も一部あります。「作業幇」を提供する大手検索サイト運営会社Baiduはこの点について、Baiduが保有する膨大なデータを用いて専門の教師が生徒の疑問に対し最適な解法を提示する事で理解を早める事が出来る為、効率的に勉強が出来ると謳っています。
他にも生徒、保護者、教師が共通プラットフォーム上で宿題を共有する事が出来る「一起作業」も人気があります。「一起作業」の特徴は三者が同一のプラットフォーム上に存在する事で生徒一人一人の習熟度合を見る事が出来る点にあります。どちらのアプリも金銭的問題や地理的問題で塾に通う事が困難な家庭では重宝するように思われます。


〇終わりに


「教育AIロボット」については、値段が高すぎるように思われますが、実際に店頭で触れてみると玩具のような300元(約4,500円)のロボットから先に紹介したような高性能なロボットまで販売されています。その他にも深センでは「STEM教育」という科学(Science)・技術(Technology)・工学(Engineering)・数学(Mathematics)を重点に置いた教育を行う小学校が存在しており、将来の技術者を育成しようとする動きもあります。
今後、グローバル化が進む社会で子供がどのように育てていく事が良いのか、誰もが模索している最中なのではないかと思います。筆者も模索しながら今後のテクノロジーがどのように教育に影響を及ぼすのかを注視していきたいと思います。

(1元≒約15.0円)
以上
深セン駐在 吉田

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